第25回 2014年の抱負

第25回 2014年の抱負

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2014年の抱負

― 明けましておめでとうございます。黒岩知事の新年の抱負をお聞かせください。

黒岩:明けましておめでとうございます。2014年の抱負としては前年、中心に据えてやってきたヘルスケア・ニューフロンティアをさらに進めていくことがまず挙げられます。神奈川県の大きな課題は超高齢化社会への移行スピードが非常に早いということです。1970年には85歳以上の方はほとんどおられず、人口ピラミッドは見事な形を示していました。ところが、2050年には85歳以上の年齢層が最も厚くなるのです。1970年とは全く逆の形になりますので、1970年のシステムは通用しないんですね。そこで、神奈川県はこの時代にふさわしいシステムを構築していきます。

― 具体的にはどういった取り組みをなさるのですか。

黒岩:最先端医療・最新技術の追求と未病を治すということです。最先端医療はiPS細胞に代表されるような研究を進め、高度医療、個別化医療に繋げます。未病を治すことに関しては医食農同源、健康、運動も含みます。この二つを融合させ、健康寿命日本一を目指します。このプロセスそのものが産業であり、ヘルスケア・ニューフロンティアなのです。

― 最先端医療の拠点はどちらですか。

黒岩:京浜臨海部ライフイノベーション国際戦略総合特区ですね。当初は川崎市の殿町区域、横浜市の末広区域、みなとみらい区域、福浦区域の4拠点でしたが、昨年、新たに13拠点が追加され、17拠点になりました。また、この特区のほかに、神奈川県には「さがみロボット産業特区」があります。こちらでは生活支援ロボットや災害救助ロボットの実用化、普及の促進や関連産業の集積を進めています。

― 「未病」について、ご説明いただけますか。

黒岩:健康と病気は対立する概念ではありません。突然、病気になったり、健康になったりするわけではないですね。健康から病気へ連続的な変化により移行していく、そのすべてのプロセスが未病という考え方です。未病は予防とも違います。予防とは健康と病気が二項対立だとする考え方から生まれるもので、健康から病気へと移行しないためのものなんですね。予防という概念は病気になってしまったら、消えてしまいます。ところが、未病は健康であっても、病気であっても、どの段階にも存在します。もし病気になっていても、少しでも健康の方に向かわせようとするのが未病を治すという考え方です。そのために大事なのが食なのです。

― その中で看護師はどういう仕事をすべきでしょうか。

黒岩:看護師の皆さんは医療現場での実践を通して、病院で対応できる仕事の限界を痛感しているはずです。人は病気になると病院に行きますが、病院の中でいくら看護師が頑張っても、その患者さんがどんなライフスタイルなのかというところから見直さないと、いい結果はでません。この動きこそ、未病を治すものであり、看護師の得意な分野でしょう。ヘルスケア・ニューフロンティアでもライフスタイルのチェックは重要な柱のひとつです。

― 具体的にはどのようなものですか。

黒岩:病院の検査ではなく、ありとあらゆる生活の現場から情報を集積します。例えば、TOTOのウォシュレットに消臭機能が付いています。これを活用して、身体の状態を判断し、データを集積するという研究・開発が進んでいます。また、声の分析で鬱の状態が分かる機械があり、「心のレントゲン」と言われています。病気になって鬱になったり、鬱が進行して病気を悪化させたりします。鬱を改善することによって病気を軽くすることもできるかもしれません。心の未病を治すんですね。既に行っているものとしてはお薬手帳の電子化で、スマホで管理できるようにしています。今後はカルテ情報や診療情報が入るように改善していきます。ビッグデータを解析することで、個別化医療や治未病に繋がるのです。

― 最先端医療と未病を治すことが両輪なんですね。

黒岩:個別化医療を行うことで、病気の人に的確な治療ができ、無駄を省けます。また、未病の段階から健康へと向かわせることで、超高齢社会の中で健康寿命が伸びていきます。これがヘルスケア・ニューフロンティアであり、この中の課題を乗り越えていく一年にしたいものです。そして、産業と結びつけ、産業を活性化させないといけません。このプロセス自体が成長エンジンなのです。

― 具体的にはどのようなものですか。

黒岩:未病を治すというのは漢方の考え方ですが、超高齢社会では重要な概念です。中医学の原点の教科書である「黄帝内経」では「上医は未病を治す」と書いてあります。病気を治す医師よりも未病を治す医師の方が偉いんですね。しかしながら、今の中国では必ずしもそうではありませんので、日本発のメッセージにしたいものです。薬膳までいかなくても、日常の日本食はヘルシーですし、食材も多彩です。野菜も葉、根、茎、中身、種と全て使いますし、色も緑や黄色、白などバラエティに富んでいます。このような多様性にあふれた日本食は未病を治す知恵が凝縮した食文化だと思います。それから地産地消です。身土不二という言葉がありますが、自分の近くで育った旬のものを食べることの大切さを教えてくれています。
 食のあり方、生活のし方、運動への取り組み方を誰が一番知っているのかというと専門性のある看護師ではないでしょうか。これらをトータルでやっていくことが超高齢社会を乗り切るために大切です。医師は患者さんを治すのは得意ですが、未病を治すことは難しいですし、今後、具合の悪い人たちが増えてきたら、病院だけでは対応できません。未病を治す主役は看護師の皆さんだと期待していますし、看護師の仕事はこれからさらに大事になっていくでしょう。