第26回 シンガポール、ミャンマー、タイを訪問

第26回 シンガポール、ミャンマー、タイを訪問

なし

シンガポール、ミャンマー、タイを訪問

― 黒岩知事は昨年、シンガポール、ミャンマー、タイを訪問されましたね。

黒岩:非常に意味のある訪問でした。タイは神奈川県内にある中小企業の進出ニーズが高いですし、ミャンマーはこれから高くなりそうですので、県内の中小企業の方たちと一緒に訪問しました。タイでは観光客の誘致活動を行ってきましたよ。

― シンガポールではどういったことをなさったのですか。

黒岩:神奈川県、横浜市、川崎市が推進する京浜臨海部ライフイノベーション国際戦略総合特区の取組のうち、国際戦略強化を県とともに進めているのが、GCC(ライフイノベーション国際協働センター)なのですが、ここが窓口になって、シンガポールの政府機関とMOU(覚書)を交わしたのです。シンガポールのバイオポリスはバイオライフサイエンスでのアジアの最大の拠点です。リー・クアンユー初代首相はシンガポールを小さな都市国家から現在のようなパワフルな国家へとリードした人ですが、彼はバイオポリスにも力を入れ、世界中から優秀な人材を集め、積極的に投資を行った結果、わずか10数年でここまで発展させたんですね。我々はバイオポリスの責任者であり、リー・クアンユーの20年来の側近でもあるフィリップ・ヨー規格・生産性・革新庁長官と太いパイプを持ちました。今回の覚書は神奈川県とシンガポール政府が直結した画期的なものですよ。

― 神奈川県とシンガポール政府の結びつきの目的はどういったことなのですか。

黒岩:日本で新しい薬や医療機器が開発されても、規制が厳しいために承認に時間がかかります。iPS細胞のように、日本には基礎的な技術が豊富にあるにも関わらず、製品化が進まないんですね。末期がんの患者さんの中には藁をも掴む思いで、日本では未承認の薬を海外から個人輸入している方も少なくありません。そうすると、お金は海外に流れますし、医薬品や医療機器が輸入超過となってしまいます。この額は2兆円を超えています。しかし、今後は日本で承認が遅れていても、シンガポールで承認を得ることができますから、日本で開発されたものを海外で製品化できるようになります。ただし、このような連携は逆にドラッグラグ、デバイスラグを促進しかねないという危険性もはらんでいます。それでも、あえて行うのはショック療法を狙ってのことなんです。世界のマーケットに日本の医薬品や医療機器を出すことでどうなるか、それが気に入らないなら、日本にもアメリカやシンガポールのような承認の仕組みを作るべきではないでしょうか。このショック療法で日本全体のシステムを変えていきますよ。

― グローバル・コラボレーション・センターは世界への窓口なんですね。

黒岩:グローバル・コラボレーション・センターはもともとFDA(アメリカ食品医薬品局)とのパイプはあったのですが、それがシンガポールに広がったのですよ。今年はヨーロッパと繋ぎます。

― 現在はどのような状況になっているのでしょうか。

黒岩:グローバル・コラボレーション・センターのアドバイザーにはFDAの元次官であるジョン・ノリスさんが就任しています。グローバル・コラボレーション・センターに持ち込めば承認が早いということで、多くの企業から多彩な医薬品や医療機器が集まっています。日本という国が母体ではなく、神奈川県にある特区だからこそ、できることですね。

― フィリップ・ヨー長官とはどんなお話をなさったのですか。

黒岩:フィリップ・ヨーさんはバイオポリスがアジアの拠点になり得た鍵は人材だとおっしゃっていました。「僕は誘拐犯だ」と言っていましたよ(笑)。バイオポリスはPh.Dを持った人を世界中から集め、育てています。待遇も良く、好きな研究をさせているんだそうです。そうすると、彼らはシンガポールにずっと残るんですね。「我々は新しいことをやっていく人を作ったし、人が集まる仕掛けがあるから、短期間でアジアの拠点になれた」という言葉は非常に印象に残りました。

― ダイナミズムを感じますね。

黒岩:日本の規制の多さとは対照的ですね。しかし、神奈川県の特区はシンガポールという国と覚書を交わしたのです。これで、「面白い、やろう」というスピードが加速し、人材の交流が盛んになることを期待します。日本の国民皆保険制度は非常にいい制度ですが、この制度の中でできることが最優先になりますので、安全性の確認に時間がかかりすぎるのです。世界で使われている薬があるのに、日本の医療が閉ざされているのは残念です。いい制度は残していきながら、ダイナミズムも取り入れないといけないですね。神奈川県では、今後もこのような触れ合いの機会を進めていきたいと考えています。