神奈川県の保健師活動

黒岩祐治のプレミアムインタビュー

なし

第39回 神奈川県の保健師活動

神奈川県の保健師活動

― 神奈川県は保健師活動も活発ですね。

黒岩:日本看護協会の会長でいらした久常節子さんを神奈川県の顧問にお迎えし、「かながわ保健指導モデル事業」を始めています。このモデル事業では海老名市、寒川町、大磯町の3地域に神奈川県から保健師を派遣し、地元の保健師と一緒に活動することで、糖尿病などの生活習慣病を予防したり、重症化を防ぐものです。未病の状態の悪いところにいる方々をクローズアップして、食の指導などを徹底的に行い、改善に努めていただきます。先日、久常さんにお話を伺ったところ、短期間でかなり良い結果が出て、改善が進んでいるとのことでした。

― 保健師が関わると違うんですね。

黒岩:全く違いますね。保健師が参加者のところに出向き、健診結果を使って、生活改善の動機づけを行います。そしてグループ支援の中で、どんな食生活をしているかなどを全部、書き出してもらいます。これで、自分の食生活などの改善が必要な点に気づいていただき、実際に取り組んだ結果について検査値の変化を追いながら、効果を実感していただくのです。グループ支援では仲間と一緒に生活習慣の改善を行えるよう、グループディスカッションなども取り入れています。こういうグループワークは継続することがなかなか難しいのですが、やり方がうまいようで、皆さんが楽しく出席を続けているとのことです。しかも、数値が改善されたら、もっと楽しくなるんですね。久常さんも驚くほどの効果が出ています。今のところはモデル地区のみですので、ここで培ったノウハウを神奈川県全域に広げていきたいです。

― 健康寿命が延びそうです。

黒岩:こういった取り組みをしなければ、糖尿病はますます進行し、透析を受けなければいけなくなります。1人の方が1年間、透析を行えば500万円の医療費がかかります。その方にとっても大変な負担になりますね。しかし、重症化する前に生活の改善によって、効果が上がれば、約500万円の医療費がかからなくなります。ご本人にとっても楽になるでしょう。ですから、保健師活動が重要なのです。

看護師と食の関わり

― 知事がよくおっしゃる「医食農同源」にも繋がりますね。

黒岩:看護師も食に重きを置いて考えてほしいですね。職の分業化が進み、病院には管理栄養士がおり、病院内での食については管理栄養士が主に考え、看護師は食事を配膳して、その介助を行うことに留まっています。しかし、看護師が食のあり方そのものと病気がどのように関わっているのかということに、さらに深く絡んでいくことが大事だと思います。この点をフォローしながら未病を治せるようになれば、皆の健康寿命が延びていきます。看護師は食のあり方に対する学びを深め、食を含むライフスタイルについて学習してほしいですね。

― 看護師が食に関わることが大事なんですね。

黒岩:保健師活動で実績が上がっていることがその好例です。参加者がどんなものを食べているのかというリストを自分で書き出すことで、本人のみならず、保健師も確認できます。皆でそれを確認し合いながら、楽しいゲーム感覚で進めていって、未病を治すのは理想的な姿ではないでしょうか。神奈川県では2014年1月に「未病を治す かながわ宣言」を発表しましたが、この中で三本柱として食、運動、社会参加を挙げました。皆さんが集まることにも意義があります。保健師による保健指導をすることで、地元の皆さんが集まってくるのですが、こもりきりになってしまうのは良くないですし、未病を治すことに逆行します。

― 特に定年退職後の男性のこもりきりが心配されています。

黒岩:こもりきりになると、地域力が下がります。健康寿命を長くするためにも、外に出ていかないといけませんね。人々の健康寿命を延ばすにあたって、看護師に求められるものも食、運動、社会参加への関わりです。看護学を座学でだけ学んでいると、病院の中での看護には非常に役立つでしょうが、病院を離れて生身の人間と会ったときにどうすればいいのか分からなくなります。これでは本当に看護を学んだとは言えません。その意味で、ある種の生活の現場から見ていくことが一番の原点だと思います。いつの間にか医療の高度化が進み、整理されていった中で、看護も専門性を高めてきました。これも大事なことではありますが、「人間にケアを」という原点が改めて求められているのではないでしょうか。

2015年の神奈川県

― 2015年をどのような年にしたいですか。

黒岩:今までの流れを面として広げていきたいです。未病を治すというコンセプトは徐々に浸透してきましたが、何をどうすべきかをさらに考えています。例えば、「保健指導モデル事業」を神奈川県内全域に広げるためにはどうすればいいのか、ニーズに合った看護教育はどうあるべきかといった問題などを多角的に皆で考え、取り組んでいくつもりです。
神奈川県は国際的なネットワークを作ってきました。2015年秋には箱根で未病サミットを開催する予定で、準備を行っているところです。未病と言えば神奈川県と言われるように、世界中から色々な方にお集まりいただき、そこから発信もしたいです。神奈川県ではそういう大きな仕事をしていきますので、看護師の皆さんもしっかり存在感を出してほしいです。看護師の皆さんの参加を期待しています。



黒岩知事プロフィール

昭和55年 3月 早稲田大学政経学部卒業
昭和55年 4月 (株)フジテレビジョン入社
平成21年 9月 同退社
平成21年10月 国際医療福祉大学大学院教授
平成23年 3月 同退職
平成23年 4月 神奈川県知事に就任

フジテレビジョンでは3年間の営業部勤務を経て報道記者となり、政治部、社会部、さらに番組ディレクターを経て、昭和63年から「FNNスーパータイム」キャスターに就任する。その後、日曜朝の「報道2001」キャスターを5年間、務めた後、平成9年4月よりワシントンに駐在する。
平成11年から再び「(新)報道2001」キャスターに復帰する。自ら企画、取材、編集まで手がけた救急医療キャンペーン(平成元年~平成3年)が救急救命士誕生に結びつき、第16回放送文化基金賞、平成2年度民間放送連盟賞を受賞する。
その他、人気ドキュメンタリーシリーズの「感動の看護婦最前線」、「奇跡の生還者」のプロデュースキャスターを務める。「感動の看護婦最前線」も平成5年度と14年度の2度にわたって民間放送連盟賞を受賞する。さらに、日野原重明氏原案のミュージカル「葉っぱのフレディ」のプロデュースも手がける。
平成21年9月、キャスター生活21年半、「(新)報道2001」15年あまりの歴史に幕を閉じ、フジテレビジョンを退社する。国際医療福祉大学大学院教授に転身するが、神奈川県知事選立候補のため、辞職する。
平成23年4月23日に正式に神奈川県知事に就任し、「いのち輝くマグネット神奈川」の実現に向けて全力で取り組んでいる。

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