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Vol.23  看護師だからできる院内ADR(前編) 市立豊中病院 医療安全管理室 水摩 明美室長

看護師だからできる院内ADR 前編
市立豊中病院 医療安全管理室 水摩明美室長

病院や医療者に対する患者さんやご家族からの苦情やクレームは後を絶たない。医療過誤訴訟の件数も増加しているが、患者側が真に満足する状況には至らず、医療機関も司法のあり方に対して不満を抱くことの多い現状である。
大阪府豊中市の市立豊中病院では、2005年3月に裁判外紛争解決(ADR)制度の導入に関し、報告書をまとめた。これによって第三者による院外医療ADRの構築が打ち出され、翌月、医療安全管理室を設置する。これは医療の安全確保に組織的に取り組むための統括・調整部門で、看護師である水摩明美さんが室長となり、看護職のゼネラルセーフティーマネージャー(GSM)を務める。さらに感染管理認定看護師1人、WOC看護認定看護師1人、事務職2人が専任で配属となった。
「院内ADRは看護師だからできる仕事」と言い切る水摩明美室長にお話を伺ってきた。

■プロフィール

島根県出身。1975年に国立大阪病院附属高等看護学院(現 大阪医療センター附属看護学校)を卒業する。その後、国立大阪病院(現 大阪医療センター)に勤務し、1978年に市立豊中病院に移り、ICU、手術室、外科病棟などに勤務する。1982年に仏教大学通信教育部に入学し、社会学部社会福祉学科を4年で卒業。1994年から豊中看護専門学校で教員としての経験を積み、この間の1999年に看護師長級となる。2000年に市立豊中病院に外来師長として戻る。2004年に集学治療病棟師長に就任し、外来化学療法センターの設立に伴い、がん患者のサポートチームを牽引する。2005年から医療安全管理室長に就任し、現在に至る。

● 院内ADR

2005年に医療安全管理室の室長に就任される前のお仕事についてお話しください。

 2004年に外来化学療法センターが設立され、私もその一員として「これからはがん看護だ」と思っていました。そこではがんの患者さんに対する告知要員や外来看護師の育成を行っていたんです。平均在院日数の短縮のためには外来を充実させないといけません。そこでクリティカルパスを使っての患者さんへの説明など、常勤看護師、臨時職・パート看護師を問わず一律に教育しました。看護記録を導入したり、がん患者サポートの会を立ち上げるなど、外来看護師の士気を高めていきました。以前に看護学校で教鞭をとったこと、それから外科系の病棟で長く勤務したこともこの人事につながったのかと感じています。病院からは「やらせれば、調子に乗ってやるだろう」と思われていたのでしょう(笑)。

裁判外紛争解決(ADR)制度について、ご説明頂けますか?

 裁判外紛争解決(ADR)制度は裁判によらない解決法です。私どもではこの制度の導入に向け、2005年3月に医師、学識経験者、法律家、マスコミ関係者などの委員による報告書がまとめられました。これによって第三者による院外医療ADRの構築が打ち出されたわけですが、これを受けて翌月に医療安全管理室が設置され、私が室長に就任し、セーフティーマネージャーとしての業務を行うことになりました。まずはインシデントの集約、分析、フィードバックですね。それから苦情やクレームへの対応、医療事故や裁判に関することを事務職員と行うのですが、私としては「看護の続き」であるという認識でした。なぜなら苦情対応は看護師長として当然の仕事であり、師長として15例ほどの一次対応の経験があったからです。

それが院内ADRになられたのは、どういう経緯なんですか?

 今も申し上げたように、苦情対応は看護師だからこそできる仕事です。「ADR」を始めると決まってから、色々と調べたのですが、その段階でも12例ほど扱っていました。並行して調停人養成講座も受講しました。その頃、早稲田大学法務研究科の和田仁孝教授と大阪大学コミュニケーションデザインセンターの中西淑美講師にお会いする機会があり、コンフリクトマネージメントでのメディエーションの理論と技法を勉強させて頂くことになったんです。そこで私がやってきたことがメディエーションだと分かりました。看護業務でやってきたからこそ、できる仕事なのです。

● メディエーション

院内ADRの中でのメディエーションとはどういったものなのですか?

 ADRには裁判準拠型と対話促進型があります。裁判は結審までに3年から5年がかかり、どちらが勝っても満足感を得られるわけではないと言われています。そこで「もっと話し合いができなかったのか」という観点から、私どもでは対話促進型のADRを行っています。そこでのメディエーションは患者側と医療側双方の対話によって前向きに体験を克服していくというもので、感情的な面も含めて解決をもたらすことが可能です。

メディエーションでの水摩室長の役割について、お聞かせください。

 私はメディエーターという役割です。患者さんやご家族、医療者との話し合いに立ち会い、中立・公正的に対話を促進し、合意の形成、葛藤の乗り越えを図りますが、司会進行者として高いコミュニケーションスキルが求められます。看護師は意識することはあまりありませんが、言語的にも非言語的にもトータルなコミュニケーションスキルを持っています。そしてグループワーク、カウンセリング、ネゴシエーション、ファシリテーター、アドボケーターといったスキルも十分持ち合わせているので、この仕事ができるんです。

苦情やクレームの対応はどのような流れになっているのですか?

 接遇や環境などに関する苦情は医事係が対応し、医療安全管理室は医療内容に関するものを受け付けています。患者さんやご家族が直接来院されることが最も多いのですが、電話、投書、院長への手紙などでも持ち込まれます。最初はメディエーターが医療者側の当事者であるかのように「ミスだ」とか「金払え」などと感情をぶつけてこられることもありますね。そこで「あなたのお話を聞かせてもらいますよ」という姿勢を示します。既にメディエーションが始まっているんです。相手の主張を把握しながら、感情面へのケア的な対応をしていきます。これが一次対応ですが、カルテを見ながら話を進めますと半数の方が納得されますね。

二次対応はどういったものなのですか?

 患者さん側は最初は医療者個人へ恨みを持たれているのですが、徐々に「医療に間違いがなかったのか、きちんとした説明がほしい」というように問題点が現実的になってきます。その後は患者さん側には直接の面談や電話などでお話をしていきますが、患者さん側に複数いらっしゃるときはそれぞれに主張が異なるので、争点を明確にさせることが必要ですね。


【苦情・クレーム対応のフローチャート】

どういうタイミングでメディエーションを提案されるのですか?

 医療の事実について確認し、医療者側から直接説明を受けた方がよい、話し合うことによって解決の糸口が見えてくる可能性が高いと判断したら、メディエーションを提案します。患者さんには「医療者とあなた方のどちらの味方ではありませんが、私が立ち会いますので、病院の関係者と直接話し合ってみませんか」と伝え、日程を調整します。

メディエーションの準備について、お聞かせください。

 まず苦情やクレームの内容によって医療者側の出席者を決めます。病院の責任者としての回答が必要な場合は病院長の代理として副院長に出席を依頼することもあります。それから部屋を選び、着席する位置なども考えて、緊張感が少ない雰囲気で話し合える環境を作っていきます。開始前に、正式な記録作成のために録音の許可を得て、時間は約60分の予定であることを説明します。これまでの平均実施時間は75分です。やはり参加者が対話に集中できるのは2時間が限度ですね。そして医療者に対しては、頭を下げる練習もしてもらいましたし、難解な医学用語なども「横文字を使うな」と言って、易しい言葉で言い換える練習もさせます。

進行中は司会をなさるんですよね?

 常に中立的な司会進行を行って、意見を述べることは差し控えています。しかしながら私は双方の状況を把握しているので、通常の司会者とは趣が違います。言語的、非言語的コミュニケーションスキルを使って、意見を十分主張して頂けるようにエンパワーしながら進行しています。医療者側は精一杯治療をしたにもかかわらずこのような結果になったということ、患者側は医師を信頼していたにもかかわらず期待外れの状態で悲しんでいるというようなことなどを、それぞれが相手に伝えることができるような対話を促進します。

感情の行き違いは収まっていきますか?

 まずは患者さん側からの主張に集中します。そこでの患者さんの訴えを医療者が真摯に受け止めれば、必然的に謝罪の言葉が出てきます。そして医療者が具体的な再発防止策を提示して、感謝の意を伝えるのです。したがってメディエーションは妥協の場ではなく、本音を出し合いながら満足を追求することを目的としています。医療行為の過誤の有無ではなく、患者さん側と医療者との関係の歪みを修正することを最優先し、WIN−WINの解決を見出していくのです。

後編では、メディエーションでの合意と効果、医療安全への取り組みなどをお伝えします。

後編へ続く・・・

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