第02回 黒岩裕治の頼むぞ!ナース

黒岩祐治の頼むぞ!ナース

黒岩祐治
ジャーナリスト。国際医療福祉大学大学院教授。早稲田大学大学院公共経営研究科講師。医療福祉総合研究所(スカパー・医療福祉チャンネル774)副社長 <プロフィール>

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▼バックナンバー #1〜#49

 



 

第2回 〜医療ミス(後編)〜

 ある日、突然、あなたの病院にたくさんのテレビカメラと記者が押し寄せてきたらどうしますか?仕事を終えて帰ろうと思ったら、いきなりマイクを突きつけられて、「医療ミスはあったんでしょう?」「そのドクターはどんな人ですか?」「日常的にこういうことってあるんでしょう?」とたたみかけるように質問されたらどうしますか?
 すでにそれに近い体験をして、マスコミ不信に陥っている人もいるでしょう。私自身も医療現場を取材していて、マスコミ不信があるなと感じたことはたくさんあります。いったん不信感が生まれてしまうと、それが私たちとは全く関係ない体験であっても、新たな信頼関係を作るのは容易なことではありません。
 私がすべてのマスコミの姿勢の責任を受け止めることはできませんが、マスコミの中には反省すべきところがたくさんあることは事実です。特にテレビの世界ではさまざまなスタッフが働いていて、十分に基礎的なトレーニングができていない人でも第一線で働いていることはよくあります。
 それは恥ずべきことではありますが、そういう無礼な連中の手のうちを知っていれば、いざという時にみなさんの役に少しは立てるのではないでしょうか。今日はメディアの実態をお伝えしながら、正しいメディア対応のあり方を考えます。それとともに、医療ミスの問題にみなさんがどう向き合うべきかについて、私の考えを提示してみたいと思います。

 そもそも冒頭に書いたように、メディアはなぜ、ある時、突然の攻撃性を発揮するのでしょうか。例えば、「あの病院で医療ミスがあった」という一報をマスコミがキャッチしたとします。その瞬間、番組のプロデューサーやデスクはディレクターに直ちに現場に行って取材をしてくるように指示をします。
 どこか一社が報じたいわゆるスクープの場合は、その他のメディアは時間を争って現場にやってきます。病院のスタッフにとってはまさに晴天の霹靂であって、いったい何が起きたのか、想像もつかないでしょう。テレビの場合はたいがい放送までの時間が限られています。ですから、ディレクターはみんな焦っています。
 デスクから怒鳴られながら、インタビューを録ろうと駆けずり回ることになります。ただ、いきなり病院に行っても、中に立ち入ってマイクを向けることはできませんから、病院の周辺でカメラを回すことになります。
 それと同時にディレクターは病院としての公式的な見解を求めてきます。病院長の記者会見をかなりきつい言葉遣いで要求するディレクターもいるでしょう。その時の対応の窓口がはっきりしていないと、スタッフと見れば誰にでも声をかけてきます。
 例えばナースにしてみれば、どうして自分にそんなことを聞かれるのか理解できず、頭にきてしまうでしょう。ディレクターは満足な対応が得られなければ、だんだん攻撃性を増してきます。焦っていると、大声で怒鳴ったりすることもあるかもしれません。状況はどんどん悪くなってしまうのです。
 結局、病院の大きな会議室などで病院長らの記者会見が設定されて初めて、ある種の秩序が出来上がり、現場は落ち着いてきます。みなさんがテレビでしばしば見かけるシーンはこうやって出来てきます。病院長らが立ち上がって深々と頭を下げ、「申し訳ありません」とお詫びしている映像は、カッコいいものではありませんが、少なくともお詫びをしなければ収まらないというというのが、一般国民の心境なのです。

 いい悪いは別にして、それがメディアの実態です。情報を求めて殺到してくるメディアに対して、逃げようとすればするほど状況は悪化してきます。「早く」、「誠実に」、「正確に」というのが、対応の基本です。
 なによりも早急に情報の窓口を一本化することが大切です。そして、できるだけ情報をオープンにしようという姿勢を明確化することです。できるだけ早く段取りを決め、今、何をしようとしているのか、責任者の記者会見をいつ、どこで、開くかなど、途中経過を細かく報告することも大事です。細かいことを言えば、マスコミ陣の居場所を早く確保することも必要です。病院の中をうろうろされても困りますし、玄関に妙な形で陣取られても混乱します。時間に追われて、情報を求めてくる人間に対してはその道筋を早く提示してやれば彼らは落ち着くのです。
 人間の心理からすれば、逆の対応になりがちです。マズイことが起きたらできるだけ隠したい、ごまかしたい、時間を稼ぎたいと思うのが普通です。そうすることですべてが逆効果になってしまいます。隠そうとすればするほど、ごまかそうとすればするほど、時間を稼ごうとすればするほど、ディレクターはきびしく追求しようとするものです。それが攻撃性につながり現場は混乱してしまうのです。
 人間の心理に反することをしなければならないわけですから、いきなりでは絶対にできません。普段から危機対応のためのシステムを作っておくことが必要なのです。危機対応の責任者は誰で、どういう体制で臨むかについて、マニュアルを作っておかなければなりません。「備えあれば憂いなし」という意味からすれば、防災訓練と同じだと考えるといいのではないでしょうか。

 ところで、もしもあなたが医療ミスに関わった当事者だった場合はどうすればいいでしょうか?あなた自身が点滴を間違えて別の患者のものを投与してしまったとか、薬の処方を間違えたとか、また、一緒に手術室にいたドクターの明らかなミスを見てしまったとかの場合、あなたならどうしますか?
 他の医療スタッフが「内緒にしておこう」と話し合っているのを聞いた場合は、その合議に加担しますか、それとも仲間を裏切ってでも事実を公表しますか?事実を明らかにしたら、その人の人生が大きく狂ってしまうだろうと思うと、きっと悩み苦しむことになるでしょうね。
 実は私のホームページにそういう相談が実際に寄せられたことがありました。手術中にドクターが間違ったところを切ってしまったのに、内緒にしておくようにと命令されてしまったというのです。「内緒にしておいた方がいいですよ」などと私が答えるわけにはいきません。かと言って、真剣な悩み相談に対して、「明らかにするのは当然じゃないですか」と自信たっぷりに断言することも躊躇されました。でも、私に相談してきたこと自体、事実を明らかにする勇気を持ちたいということだったのではなかったのかと思い、「誰のための医療かということを考えて、結論を出すべきではないでしょうか」というコメントを書いて送りました。
 結局は、内部的にも隠すことはできないということになって、彼女の態度表明を待たずしてオープンにすることになったようでした。医療ミスにおいては常にこういう問題がつきまとうことになります。

 私は医療ミスに向き合うためにもっとも大事なことはシステムの整備だと思います。個人が医療ミスへの対応で悩むというのは、システムが整備されていないからです。つまり、隠そうとすれば隠せることが問題なのです。隠そうとしても隠しようがないシステムを作り上げることが大事です。ごまかすことなど不可能なシステムが必要です。時間を稼ごうと思ってもそうするだけで、異変が察知されてしまうようなシステムさえ作っておけば、個人が悩むことはないはずです。
 要するに情報公開を徹底させることです。もちろん、個人情報はしっかり守らなければなりませんが、その上で医療のプロセスをガラス張りにして、問題が起きた時にはただちに追跡ができるようにしておけばいいのです。手術室の模様がすべて映像と音声で記録されていれば、ミスがあった時に仲間内で内緒にしておくことはできなくなるでしょう。
 これから医療現場はもっともっとIT化が進むことになるでしょうが、これも医療ミスを未然に防ぐために活用できるはずです。患者が腕につけているリストバンドのコードと違った点滴やクスリを投与しようとしたら、アラームが鳴るような仕組みがあれば、間違えようがなくなります。
 あらゆる事態を想定して事前に備えるというのが、危機対応の基本です。ハイテク技術のチカラも借りながら、人のネットワークをしっかり作って、マニュアル化することが求められています。こういったいわゆるリスクマネジメントがしっかりしているかどうかが、これからの病院の評価を大きく分ける重大な要素となるに違いありません。ナースが安心して患者に向き合える病院でなければ、私たち患者も安心して身体を任せることはできないと私は思うのです。





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