第16回 黒岩裕治の頼むぞ!ナース

黒岩祐治の頼むぞ!ナース

黒岩祐治
ジャーナリスト。国際医療福祉大学大学院教授。早稲田大学大学院公共経営研究科講師。医療福祉総合研究所(スカパー・医療福祉チャンネル774)副社長 <プロフィール>

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▼バックナンバー #1〜#49

 



 

第16回 〜いじめる側と、いじめられる側から考えて見ると・・・〜

 最近、いじめ自殺が社会問題化していますが、ナースのみなさんにとっても他人事ではないでしょうね。心の問題を抱えた患者さんにナースとして接することもあるでしょうし、病院において自らがいじめの当事者になることもあるでしょう。いじめはどこの世界でもあるものです。決して日本だけのものでもありません。

 世界的なオペラ歌手の森麻季さんからイタリアでのいじめ実体験を聞いたことがあります。白人の西洋文化のオペラの世界に東洋人が入ってきて、自分たちのライバルになることが我慢できなかったらしく、声楽家同士から実に陰湿ないじめの被害にあったと言うのです。わざとウソの集合時間を教えられたり、衣装を隠されたり、露骨なイヤミを言われたり、まるで子供のようないじめです。

 私自身のことを振り返ってみると、いじめっ子であったことも、いじめの被害者であったこともあるように思います。いじめっ子というのは今から思えば、そう言わざるをえないなと思うだけであって、当時は自分をそんなふうに思っていませんでした。おそらく今、問題になっているいじめとは質が違っているような気が私自身はしているのですが・・・。

 中学・高校と6年間一貫の男子校にいた私は、ガキ大将的なところがありました。有り余る元気を持て余していたのでしょうが、かなり乱暴なイタズラをしたものです。一番怖い数学の教師の授業の直前に、隣のクラスの生徒T君を拉致してきて入り口の柱に柔道の帯でくくりつけるのです。「起立!」をすると、たった一人、柱にくくりつけられた状態です。みんなクスクス、笑いをこらえるのに必死です。

 いつもやられるのはT君です。その鬼教師が誰かを叱り付けるのかと思いきや、先生自身も思わず笑ってしまうのです。そして、「なんでいっつもお前ばっかりくくりつけられているんだ?どこかお前に問題あるに違いない」と、被害者のT君をかばうどころか、非難する始末です。若いいい加減な教師ではなく、大ベテランの重鎮でしたから、やられるT君としてはたまったものではなかったでしょう。

 また、新しいイタズラも次々に開発されました。やはり、この教師の授業の直前でしたが、隠し持ってきたシャンプーをいきなり後ろからM君の頭に振りかけるのです。そしてみんなで押さえつけてマッサージします。「起立!」の号令のギリギリまでやり、起立すると同時に解放します。すると一人だけ頭が泡だらけの生徒が立っていることになるのです。

 これも刺激を求めてさらにエスカレートしていきました。シャンプーを振り掛けるのは同じなのですが、あえて「起立!」の少し前に解放するのです。するとM君はトイレに猛ダッシュで駆け込み、頭を洗って戻ってきます。本人は間に合ったとホッと一息。ところが起立する直前に再びシャンプーを振り掛け、猛烈なマッサージをするのです。すると濡れた髪ですから、泡は一気に盛り上がります。頭がアフロヘアーのように泡泡になったまま、起立しているのです。みんな涙を流しながら、笑いを必死でこらえているといった状況です。

 私自身は自ら実行犯ではありませんでしたが、大きな声で指示を出していましたから、首謀者の一人であることは間違いありません。さて、私たちのこのイタズラはいじめだったのでしょうか?今の基準からすれば完全ないじめだと言われても仕方ないでしょうね。でも、私たちはじゃれあっていただけのようにしか思えないのです。やられていた方も精神的に滅入ってしまうようないじめの被害者だという認識はなかったのではないかと思うのですが・・・。

 あれから30年以上の歳月が流れましたが、みんな今も仲良しです。T君は世界を股にかける商社マン、M君はドクターとして第一線で大活躍しています。T君も、M君も同窓会には顔を出し、みんなと一緒になって酒を酌み交わしながら笑って当時を振り返っています。少なくとも誰も根に持ったり、恨んだりはしていません。

 私はキャスターになってから、いじめられっ子たちのインタビューに行ったことがありました。不登校になった子供たちを預かっている施設で、10人ほどの子供たちに車座になってもらい話を聞きました。どんないじめを受けたのかという質問に対して、彼らが口々に言ったのは、「デブ、ブタと言われた」「柔道の帯で縛られた」「シカとされた」「臭いと言われた」「意味もなく殴られた」などなど。

 私はその時、自分の過去を振り返って一瞬、ゾッとしました。自分がやったことも含まれていたからです。私はいじめっ子だったから気がつかなかっただけなのだろうか、自問自答しながらインタビューを続けていました。そこで私は思わず致命的な間違いを犯してしまいました。聞いてはいけない質問をしてしまったのです。「それはもしかしたらふざけてるだけであって、相手にはいじめてるという気はないんじゃない?」

 その瞬間、彼らの視線が一気に変わるのを感じました。私をいじめっ子の仲間と認識したに違いありません。殻の中に入り込んでしまって、その後はいっさい私の顔を見ようとも、まともに答えようともしてくれませんでした。私にとって最低のインタビューとなってしまいました。やっぱり私はいじめっ子側であって、いじめられる子供たちの気持ちは理解できない人間なのか、真剣に悩みました。


 しかし、私も激しいいじめの被害を受けたことはあります。それは大学生になってからのことでしたが、ある日、突然のごとく、誰も口をきいてくれなくなったのです。いわゆるシカとされたのです。目を合わせてくれない、なんとなく私を避けようとしている、私が話しに入ろうとすると人がいなくなる。そんなはずはない、私の被害妄想かもしれないと必死で思おうとしたのですが、どう考えてみても明らかな私への悪意は否定しようもない段階にまで来ていました。

 原因が全く分からなかったから、ずいぶん悩みました。自分でどんなに考えても思い当たる節が見当たりませんでした。もし、頭の上から何かが落ちてきて死んじゃったらどんなに楽になるだろうかなんてことまで思いました。この時の経験を思い起こすと、いじめで追い込まれて死を選択する子供の気持ちも分からないわけではないのです。

 思えば勝手なものかもしれません。自分がいじめっ子だったかもしれないことについては、未だに確証が持てないにもかかわらず、自分がいじめられたことについては今も生々しい実感を持って思い出すのですから。

 私自身へのいじめに対しては、その首謀者と目安をつけた人物に直談判することで事態を打開することができました。原因が分かったのです。私自身は全く意識していなかった私のある種の行動が、完全な誤解で受け止められていたのでした。そんな受け止め方をされていたのかというのは衝撃でしたが、率直に教えてもらえたことはありがたいことでした。

 みなさんの病院の中でもいじめは日常的にあるでしょうね。私の高校の同窓生のドクターの一人はずいぶん前に、若くして自殺しました。実は病院の中でいじめにあって悩んでいたという話を聞きました。彼こそ、中学・高校時代はいじめっ子の方だっただけに私たちもびっくりしました。もう一人、ノーベル賞級の発見をしたとして世界的に注目されたにも関わらず、白い巨塔の中の理不尽ないじめに苛まれたというドクターもいました。彼は闘い半ばにして、ガンで亡くなってしまいましたが、葬儀の場で大学の医局の中における嫉妬の怖さを聞かされ、身の毛のよだつ思いがしました。

 ナースの世界も人には言えないややこしい問題がたくさんあるでしょうね。せっかく理想に燃えてナースになったのに辞めてしまう人がたくさんいますが、人間関係に疲れたことが原因だという声は私の耳にもたくさん入ってきます。中にはいじめが原因という例もたくさんあるんでしょうね。ただ、子供の時のいじめと違って、組織のマネジメントがしっかりしていれば、いじめは激減させることはできると私は思います。そもそも患者さんを救いたいという共通の目的に向かっているのですから、人間同士の好き嫌いは関係ないはずです。いじめ自殺は今、学校での問題として注目を集めていますが、この際、私たちの職場の中の問題として改めて考え直してみるきっかけにしてみてはいかがでしょうか?





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