第23回 黒岩裕治の頼むぞ!ナース

黒岩祐治の頼むぞ!ナース

黒岩祐治
ジャーナリスト。国際医療福祉大学大学院教授。早稲田大学大学院公共経営研究科講師。医療福祉総合研究所(スカパー・医療福祉チャンネル774)副社長 <プロフィール>

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▼バックナンバー #1〜#49

 



 

第23回 〜高齢化社会の本来の姿〜

セドナって知っていますか?アメリカ・アリゾナ州にある保養地です。ネィティブアメリカンの聖地とされているところで、スピリチャルな癒しのスポットとして最近少しずつ注目を集めてきました。観光ガイドブックにもあまり書かれていませんから、日本ではまだそれほど知られた場所ではありません。

「先日、セドナに行って来たんです」と言うと、私の周りのリアクションは真っ二つです。97%の人はセドナそのものを知りませんから、全く反応しません。ところが、後の3%の人のリアクションは強烈です。みんな目をまん丸にして大きな声で絶叫するのです。「ええっ〜、ホントですか?一度行ってみたかったんです〜。どうでしたか?どうでしたか?」まさに両極端なのです。

サンフランシスコ空港で国内便に乗り換えて2時間でフェニックス空港に着きます。途中、上空から見るアリゾナの砂漠地帯の光景は印象的です。草木が一本もない壮大な砂地の山と大地が延々と続くさまは、生命の存在を拒絶するかのようです。川の流れの跡らしきものを確認していると、温暖化が進んだ地球はいつかこんな風に干上がってしまうかもしれないなとゾッとしてしまいます。

フェニックス空港からは車で北へ向かいます。ハイウェイを走ると、だんだん周りの風景が変わってきて、サボテンがあちこちに群生しているのが見えてきます。西部劇の映画のワンシーンに迷い込んだようで、カウボーイやアメリカインディアンが突然現れてくるような錯覚にとらわれてしまいます。

車で2時間、遠くに見えていた特有の赤茶けた岩山がだんだん近づいてくるとそこがセドナです。最初、目に飛び込んできた岩山の壮大な美しさに思わず声をあげてしまいました。それはまるで城砦のようであり、巨大な寺院のようでもあり、荘厳な古代遺跡のようにも見えます。自然が作り出した岩山とはとても見えません。そしてそんな岩山が無数に点在しているのです。成田空港を飛び立ってから現地まで17時間経っていましたが、長旅の疲れなど一気に吹き飛んでしまって、私はただただ圧倒されてしまいました。

東京ディズニーランドにあるビッグサンダーマウンテンのモデルとなったのはここにあるサンダーマウンテンです。トロッコ列車仕立てのジェットコースターが爆走するアトラクション、ビッグサンダーマウンテンの岩肌は確かに赤茶けていました。あれは夢と魔法のディズニーの世界の山だから赤いのとばかり思っていましたが、違いました。ディズニーはスケールこそ小さくはしていましたが、驚くほど忠実に再現していたのです。

岩山は形に応じてそれぞれに名前がつけられています。寺院のように見えるキャセドラルロック、釣鐘のようなベルロック、スヌーピーが寝そべっているように見えるスヌーピーロックなどなど。それらの岩山にはボルテックスと言われるスポットがあります。大地の気が噴出している場所だと言うのです。セドナの観光地図にはボルテックスのポイントが書き込まれていました。大地の気と言われても、
正直言って私自身は半信半疑でした。


3大ボルテックスとか、4大ボルテックスとか言われて、案内してくれるツアーがありました。岩山は下から見上げると急峻に見えるのですが、よく目をこらして見ると、ずいぶん高い所にまで人が登っています。登山道が特別にあるわけでもないのですが、童心に戻って挑戦してみると、案外スイスイと登れてしまうので驚きました。そうして登った所にボルテックスがあるのです。

手をかざしてみると、私も確かに気のパワーを感じることができました。左右の手のひら同士を向かい合わせていると、空気の塊のようなものを感じることができますが、それと似たような感覚です。しかし、そんな痺れるような気のエネルギーが大地から伝わってくるのが不思議です。手をあちこちにかざしてみると、気が出ている所とそうでない所があります。その区別だけははっきりと感じ分けることができました。

特に岩の割れ目からは強い気が噴出していました。その上に背中を乗せて寝そべってみました。大地からの気を背中に感じながら、透き通るような青空を眺めていると、なんとも言えぬ爽快感が身体全体に拡がってきました。今度はそこに胡坐をかいて、瞑想のポーズをとってみました。両手を膝の上に乗せ、背筋を伸ばし、静かに深呼吸をしながら、目をはるかかなたに向けてみました。

上から見る景色は壮大です。遮るものは何もありませんから、地平線のかなたまで同じような岩山と大地の景色がどこまでもどこまでも続いているのです。この季節だから特にそうだったのでしょうが、砂漠地帯の割には緑もたくさん見えました。遠い岩山の数々を展望しながら、爽やかな空気を胸いっぱいに吸い込んでいると、そのすべてを支配した王様のような気分になってきます。まるで自分の身体の中を風が吹き抜けていくような心地よさです。頭の中には何もありません。ただただ自然の中にいる自分があるだけです。

セドナに来ると不思議な体験をする人がたくさんいると言います。人生観が変わってしまって、新たな人生の選択をする人も多いのだそうです。現に現地を案内してくれた日本人ガイドもたまたま訪れたこの地に魅せられて、移り住むことを決意したのだと言っていました。私自身は新たな旅立ちを決意するには至りませんでしたが、気持ちは分かるような気がしました。自分のすべてがリセットされるという感覚です。

ホテルもまた格別でした。谷の底に作られたエンチャントメントリゾートというホテルで、一室一室コテージ風になっていました。テラスに出ると、すぐ目の前にあの赤茶けた岩山が迫っていて、圧倒されてしまいそうです。ホテルの建物も低層で、すべて岩山と同じ赤茶けた色で統一されていて、景色の中にしっとりと馴染んでいます。

まるで岩山の中に部屋があるような感覚です。

セドナにしかないセンチュリーという不思議なサボテンがあります。100年に一度しか花を咲かせないと言いますが、その花が満開に咲き誇ったさまをこの目で見られたことは私にとって最高の感動でした。センチュリーは直径50センチ〜1メートル、高さは50〜60センチ、地面にへばりつくように生えています。肉厚の葉にクギのように堅くとがったトゲは、恐ろしげです。オフロードの自転車競技でこのセンチュリーに倒れ込んだ選手は大怪我を負ったそうです。憎々しげな嫌われ者のような風情です。

センチュリーは乾いたこの大地で100年間もそのままの状態で過ごしてきます。少しも目立たず、季節の変化もなく、何の変哲もない生涯です。ところが最後の1年、春の終りに突然のごとく茎が真っ直ぐに伸びてきます。それはまるで竹のようで、あっという間に3メートル近くにも達します。そして満を持したかのように生涯でただ一度だけの花を咲かせるのです。扇を空に向かって開いたようなカタチで、ショーで使う鳥の羽のようにも見えます。それが房になって、いくつもいくつも重なっています。最初は小豆のような色の蕾が膨らんできて、最後は見事なくらいに光り輝く真っ黄色の花を咲かせるのです。

赤茶けた岩山と真っ青な空をバックにした黄色い花は、息を呑むほどの美しさです。無数のミツバチやハミングバードなどがその黄色い花に群がります。これまでの人生がウソのように、みんなから愛され、賑やかで、華やかで、楽しげです。そして3週間ほど咲いて花は散ります。それと同時にセンチュリーも100年の生涯を閉じ、枯れて朽ち果てるのです。咲き誇ったセンチュリーの横には、おそらく1〜2年前に枯れたであろうセンチュリーの死骸が横たわっていました。生きることと死ぬこと、自然の摂理、改めて人生とはなんぞやと考えさせられる光景でした。

私たちはみんな年老いていつかは死んで大地に還ります。老いるという言葉にはどうしてもネガティブな響きがあります。年を重ねるとともにだんだん人間としての機能は衰え、社会とのつながりも薄くなり、病いが忍び寄り、孤独感も深まってきます。不老長寿こそ人類が目指してきた究極の幸せでしたから、高齢化社会が実現した今こそ、本来はばら色の社会が到来したと喜ばなければなりません。ところが、高齢化社会は活力のない暗いイメージでばかり語られているのは、現代の最大の不幸ではないでしょうか?

そんな私たちに光を与えてくれるのがこのセンチュリーです。人生の最後にこそ、一番に光り輝き、心は満たされ、他人から愛され、賑やかに、朗らかに、美しくあること。それが実現できれば、どんなに素晴らしい世界となることでしょう。老いることは最高の楽しみに向かって進んでいくことであり、死は喜びの頂点で迎えられるものであるとするならば、何も怖いものなどないはずです。

セドナでもらった大地のエネルギーで私は今、自分の中に気があふれていると実感しています。そのパワーを持って高齢化社会の本来あるべき姿を追求していきたいと思っています。センチュリーのあの美しい花が私の脳裏にこびりついて離れないのです。





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