第03回 スーパードクターエッセイ/水沢慵一

スーパードクターエッセイ

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水沢慵一
医療法人社団 五の橋キッズクリニック 理事長(院長)
東京医科歯科大学医学部小児科講師、同付属病院臨床准教授
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第3回 少子化について考える

 この連載もはやいもので、3回目となりました。はじめて寄稿させていただいたときは夏真っ盛りだったのに、もう朝夕はとても涼しく、秋の虫の合奏が心地よい季節になりました。皆さんはいかがお過ごしですか?

  秋というと、急に人肌恋しくなる季節ですが、子どもたちとてそれは同じです。この季節になると、夏の疲れがわっとでて風邪をひいたりする子どもがいます。そして、なにより、秋のメイン・イベントは…「肌の乾燥」。「人肌恋しい」というくらいですから、秋は「肌」に症状のでやすい季節なのです。

  これまで暑い夏には、あせもや湿疹でぐじゅぐじゅしていた子どもたちの肌は、一転して、急にカサカサが目立つようになります。あせもや湿疹がでやすいのは、肌の防御機能が低下していて自ずとかぶれを起こして不調となるわけですが、現在の医療では、その皮膚の必死の叫び声を薬で閉じ込めてしまうこともあります。例えていうなら、せっかく筋トレして筋肉をつけようとしている若い身体を、「筋トレすると筋肉痛になるからやめておきなさい」といっているようなもので、そういった対処法は決して肌を強くしていくことではありません。あせもや湿疹ひとつとってみても、身体は決して無駄なことは何ひとつしていないのです…。ひどいあせもなどにはもちろん薬を塗布してその場しのぎすることも大切ですが、それと同時に、食生活・睡眠・運動など積極的に身体をつくっていく工夫をしていただきたいと思います。そうでないと、皮膚は強くなっていきません。少々の湿疹やあせもでしたら、薬も塗らずに、水でよく洗ったり乾燥させたりして自然に治癒させることで、適度な刺激を皮膚に与えることとなり、それが内臓への刺激へとつながるのです(これを意識的に行うのがマッサージ療法といわれており、最近注目されています)。

  さて、実は、今回の寄稿のメイン・テーマは、皮膚を強める話ではなく、少子化について書かせていただきたいと思います。「皮膚を強める」という話、実は少子化と奥深くで密接に関係しているのです。一見、関係のないような話ですが、発想を自由にして読み進めてみてください。

  人間のなかでもっとも大きな感覚器官は皮膚です。その皮膚が近頃どうも、みなさん調子がおかしいようです。この感覚器官は排泄器官でもあるので、体内の老廃物が体温が低かったりで内臓がしっかり働かずに消化器官につながる排泄器官から排出できないとき、皮膚から排出するのです。皮膚から出すほうが少ない力で済むようですね。それなら皮膚からいつも排出すればいいのでは?なんて、現代人は効率偏重ですから思う人もいるかもしれません。けれども、皮膚にはもうひとつ大事な仕事があります。その人の肉体をまもる防御器官としての役割です。われわれの肉体の内側が風雨にさらされずに生活できるのは外側に皮膚というレインコートを着ているからです。ですから、皮膚は外界と接触するもっとも大きなカバーの役目を担っているのです。外界との接触とはつまり、(他人との)境界感、つまり人間関係であり、自分と自分以外のものとの関係全てであり、自分自身という感覚を形づくらせます。ゆえに、皮膚にトラブルがあるということは、自分自身という感覚、人間関係を築いていくのにエネルギーを要するということになるのです。

  「体温が低くなると皮膚から排出する」と先ほど書きましたが、体温が低下すると、もうひとつ、もっと大きな問題がうまれます。人間はまず自分の生命を最低限維持するようにつくられていますから、体温が下がると、どうしても自分以外の生命への関心が薄れます。そして体温が低いと、再生産(種の保存、子どもを産み育てること)へのスイッチが入りにくくなり、異性との密接な関係を築くことから離れてしまうのです。「セックス」はしなくていいという再生産世代が増えているようです。現代生活はストレスに満ち溢れています。大きな意味での環境、個人的な生活環境、食生活、睡眠、深夜まで及ぶ労働、タバコ、お酒、化学薬品、刺激的な生活…もある意味、ストレスです。そういった刺激が結果的には体内のバランスを崩させ、体温を低下させるのです。

  体温が下がると、身体を十全に動かさないわけですから、頭だけは冴えてきて、いわゆる頭でっかちになっていきます。判断の場面においてやってみるまえに結果を先読みして行動する前にあきらめたり、自分自身の境界線を不当にせまく片付けてしまうのです。

  「結婚なんかしなくていい」「子どもがうまれたら生活できない」「仕事が忙しくて出会いがない」 近頃はこんな言葉をよく聞きます。いえ、ひょっとしたら、マスコミがこういう言葉を中心的に拾い上げているのかもしれません。こういった言葉を聞くにつれ、そう思っていないような人までも、そう思うようになるという「こわさ」がマスコミの力にはあります。こんな言葉が蔓延する社会は、社会として実に由々しき事態ではないでしょうか。

  元来、結婚や出産(子どもをもつ)ということは、より能動的な自然な流れの中で行われてきたことのように思います。再生産への無意識的・本能的な欲求があり、結婚して、子どもが産まれ、その経験が無意識的に「良い」経験と記憶され、ふたたびその経験を体験しようとしてまた子どもをつくり、産み、その結果、子どもが3人、4人、昔なら6人、7人…ということになっていったのでしょう。たくさん子どもを産んでいる女性は、人間的な存在の中心がしっかりしています。それは「出産を通して、女性は心身が成熟していくからだ」と三砂ちづる氏の本には書かれています(男性の場合は武道を通じて心身がつくられていくのだそうです。)

  私なりに要約しますと、『急激な日本の経済成長の時代に、病院出産が定着して「生まされる」出産、夫は仕事に駆り出されて核家族という家族形態で孤独な育児をせざるをえなかった、出産・育児を良い経験ととらえられない世代が、今60代前後にあり、自分の娘たちが結婚・出産の適齢期にあるというのに、「結婚なんてしなくていい」「仕事があればいいじゃない」というようなことを言っている。これは社会的に問題で、もっと世話をやいて、適齢期の若い人たちがパートナーをきちんともったり、結婚・出産をするような環境をととのえなくてはならないし、つい昔まではそういうことが大人たちの責任であった…』といったことを書いておられます。この著者はもともとリプロダクティブヘルスに携わっておられた方で、ご自身もお二人のお子さんがいらっしゃいますが、海外で育児を経験されているというユニークな経験を持つ女性です。

  この三砂ちづるさんの言葉を、私は「なるほどなぁ…」という感慨をもって読みました。流行した言葉「負け犬」世代の女性たちというのは、親の世代からの社会的なまやかしによって「結婚しなくていい、産まなくていい」という概念をいくらか刷り込まれていたところに、同時に、年齢的に身体の変化がおこり、バランスを欠いた結果、頭が先に立って、自身では適切な方向へと身体が動かない=行動できなくなっている世代なのではないかと思うのです。しかしながら、身動きがとれないままでいますと、余計に心身の調子もわるくなりますから、「パートナーをみつけて再生産の活動をしなくてはならないんだな…」とギリギリになってやっと重い腰を上げることになるのでしょう。しかしその時にはすでに身体の基礎は出来上がってしまっていますから、出産による柔軟性をより大きく獲得するには、ぜひ早い段階で産むのが良いのだろうと思うのです。彼女の意見を、一歩踏み込んで小児科の私が解釈してみるところが以上のような意見です。

  そんないわゆる「負け犬」世代を反面教師のようにみて、意外と早いうちに結婚・出産を考えている新たな世代がいます。今の20代前半です。好景気に浮かされて女も男も仕事!仕事!と張り切っていた世代の後姿をみながら、低め安定の経済事情の中、家族の幸せが大事、早く子どもが欲しいという世代。若い芸能人が20歳早々で結婚・出産するのをみて自分もそうしたい…と思う世代。今の20歳前後の人たちには、これまでの社会の揺り戻しが来ているようです。

  ‘80年代生まれの子どもの8割にアレルギー症状が見られるというデータがあります。今の20歳前後の結婚を指向する若い女の子たち・男の子たちは、おしなべて体温が低いがゆえに寄り添いあうこと・いたわりあうことを覚え、共感し、涙することを良しとし、人との境界線を縮めてきたのでしょう。昨今の流行する映画「今逢いに行きます」「世界の中心で愛を叫ぶ」などからそんな風に感じざるを得ません。アトピーなどのアレルギー症状が一部の子どもに限られ、母源病(発症の理由が母親との精神的葛藤にある)とか贅沢病とかいわれた時代とは異なり、程度の差はあれ、みなが同じ症状を共有している時代になりました。

  体温が低いというのは、エネルギーが低下した状態にあり、触られ、ケアされることを好みます。そういう症状が、少子化に悩む日本にとって、結果的に効を奏し、結婚したい・子どもをもちたいという若い世代がこれからふえてくるかもしれません。しかし、現状の社会福祉政策ではその元気な再生産への欲望を支えきれません。

  経済成長期の中で「こんなはずじゃない」と感じざるを得ない結婚・育児を強いられてきた老いていく世代が一日も早く次の世代のための社会的基盤をつくり、自分たちの命を継承していってくれる人たちに、暮らしやすい世の中をつくっていかなくてはいけません。

  私は小児科医の立場ですから、福祉施策をするわけでも、税金を分配するわけでもありません。けれども、小児科医なりに、次の世代をサポートしていくという大きな役目をいただいています。お子さんの親御さんの年代は20歳になったばかりの方から50代まで実にさまざまです。しかし、年代は違えど、子育てに対する思いは同じ。わが子がすくすくと健康に育ってほしいという強い願いは同じです。

  病気だけを診て、病気だけを治療するのではなく、親御さんの子育てへの思いを積極的に受け止め、親御さんとともにそれぞれの生活スタイルに適った積極的な治療方針を立てる…こういったサポーティブ(支援的)な小児科診療が、子育てしやすい社会、子どもを育てたくなる社会へとつながるのではないか、と心に思いながら診療をしている毎日です。

  うぅーん、そう思うと・・・だから、小児科って、やめられないんですよね!
  これからどんどん涼しくなります、みなさん、身体に気をつけてお互い頑張りましょう!





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