第27回 スーパードクターエッセイ/水沢慵一

スーパードクターエッセイ

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水沢慵一
医療法人社団 五の橋キッズクリニック 理事長(院長)
東京医科歯科大学医学部小児科講師、同付属病院臨床准教授
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第27回 三笠フーズ非食米事件に思う 「モノ」が「めぐり合い」に変わるとき

 朝晩はすっかり秋らしくなってきました。みなさんおかわりありませんか?
当院ではそろそろ秋冬の恒例インフルエンザ予防接種の準備に慌しくなってきました。インフルエンザの予防はその時になってから慌ててやるのではなく、予防接種など西洋医学的なアプローチで矛先ににらみを利かせつつ、脇を自然医療的な考え方でがっちりと固めておくと良いのではないかと思います。秋冬の症状には、その季節に入る前の春に乾燥を防ぎ(つまるところ体力を蓄えます)、夏には身体を冷やしすぎずに熱(陽)の力を蓄えておくのも肝要です。けっきょく私たちの身体は、持っている力しか出せないわけですから。踏ん張りのきく身体にするには、一年を通じて、体内によどみない新鮮な「力」を蓄える心がけを普段からしているかどうか、に尽きるのではないでしょうか。冬には、むやみに厚着したり暖房のきいた室内にばかりこもらず、冬の厳しい冷たさに心身を投じるのも身体を引き締めてくれる自然の一番の療法なのでしょう。

 さて、今月は、衝撃的な非食米流通事件に絡めて思いを馳せたことについてふれてみたいと思います。ここのところニュースを見れば食に関する事件や事故が実に多く、日替わりで世間を騒がせています。こういった事件や問題は、今になって明らかになっただけであって、実際的にはこれまで長い間行われてきたものも少なくないはずです。それだけ、時代的環境が組織内の「膿」を外に排出するように変遷してきたということなのでしょうか。

 三笠フーズ事件において、この会社の財務担当者のインタビュー報道を目にしたのですが、そのコメントのひどさに私は身震いがしました。「(事故米は)普通にたべられる米ですから。」といけしゃあしゃあと言ってのけていたのです。この意識の低さは、もうどうしようもないことなのでしょう。経営難に陥っていたからそれを苦肉の策でやった・・・というのではなく、それより以前にそういう経営体質だったのでしょう。やる気のない人に物事をさせるのができないように、その事の重大さをわからない人には、犯した罪の大きさを分かることはできないでしょう。

 そんなことを思っていて、ふと、思い出したことがあります。
 現在、当院ではひどいアトピー性皮膚炎の子ども達にキッズマッサージを診療に取り入れており、慢性症状のより積極的な緩和のために、日常生活でも取り入れられるケアをお伝えしています。これらのトリートメントで使用するオイルやウォーターベースの原料は、保険薬のように「タダ」というわけにはいきません。現在東京都では、子どもの診察は財布なしで出かけて帰ってこられるので、完全に自費で支払うベビーマッサージと、統合医療分野におけるケア商品の代金へのハードルは決して低くはないのだろうと思っていました。

 しかし、このスタイルになってから早いもので3年がたちますが、当初そんな予想が的中していた反面、定着してきたこのごろでは、まったく逆の反応をなさる親御さんが少なくないのにも驚かされます。特に、ベビーマッサージの対象をひどいアトピーの子ども達に広げるようになってから、その手応えを強く感じます。

 というのも、ひどいアトピーを患っているお子さんのいる家庭では、日常のリズムが子どもさんのケアを中心にまわっているケースも少なくなく、多くの親御さんが何か少しでも日常の手助けになる「モノ」を探しておられるようです。「モノ」というのは、保湿系の塗布剤から食品、衣類、寝具、石鹸など毎日の生活に欠くことのできない「モノ」の中の「何か」です。そんな折に、たまたま当院にご縁があってお越しになり、治療を継続されていた方が、より一層のケアを求めてベビーマッサージを受療する。そこでたまたま、日常に力を発揮してくれる有効な「モノ」に出会う。それらの多くは何かと言うと、出会う場所がキッズマッサージなので、子ども達の赤い肌に塗布することで、子ども達の皮膚と、親御さんの心に快適性を生み出す「モノ(商品)」以外にありません。(もちろんその「モノ」にはセラピストと患者さんの密度の高い会話や指導内容が必ず付随しています。)

 当院でベビーマッサージに使用する媒体はオイル原料であったり、水溶性の原料であったりするわけですが、どれも完全に自費負担です。「タダ」でもらえる保険薬からすれば「高い」ワケですが、親御さん方がそれら「モノ」に導かれるように「出会う」とき、自費負担というハードルはあまり意味のないものになるのだと気づきました。アトピー難民のように、病院やケア用の商品を、コレがダメなら今度はアッチ、コッチという風に単なる消費のために選ぶ人がいる一方で、真摯に求め続けていると、「これだ!」という本物とのおもわぬ出逢いが訪れるようです。たしかに、「モノ」の価格はこの不景気のご時勢に子育て世代にとって低価格であればあるほどより助かるのは当然のことです。けれども、一番悲しいのは、その「モノ」に出会えない・・ことだったのです。

 そういった親御さんの必死な心理につけこんで、うどん粉をアトピーの特効薬といって暴利をむさぼり摘発された悪徳会社も過去にあったことを思い出します。

 私のクリニックのある街は、特に下町気風のつよいところなので、なるだけ患者さんのお財布に負担を少なく、善意をもって医療というサービスと、それに付随する「モノ」を提供していきたいと願っています。「モノ」が単純に消費される「モノ」ではなく、その人の生活を助け、小児科という立場から子育てと社会を支えていく一助となるような「創造的」な「モノ」であること。そして、「医療サービス」が消費される「サービス」ではなく、「創造的」な生活時間や空間、生活の質を得られるキッカケとなるものであること、これが私たちの理想なのです。

 新聞、テレビ、インターネット・・ニュースのあちこちで、三笠フーズの安い米を仕入れて食品を製造していた有名な会社名がズラリとならんでいました。そのなかには老舗と呼ばれるような名前もありました。経済主義で市場が成り立っているがゆえに、「安い」「高い」という価値観をありがたがる考え方があるのも至極自然なことです。
 しかし、逆をいってみれば、つまり、経済主義で市場がまわっているからこそ「安い」にも「高い」にもそれ相応の理由があるということなのです。相応の価格、妥当性のある価格、は信頼の目安ともいわれるのはそのゆえんです。

 「モノ」に限って言えば、たしかに、グレードの低い原料を使えば価格は抑えられるでしょう。しかし、そのために、産み出された「モノ」が単なる「モノ」に過ぎず、それ以上の力を発揮しないとしたら、それは果たして「リーズナブル」の意味があるのでしょうか。ある「モノ」と出あい、それを使うことがきっかけになって、これまで気づきもしなかった自分の可能性の扉を開き、自分を活かし、心と身体、命の質を豊かにする。

 「医療」というサービスにおいても、私が、私の診療においてさせていただいていることはそんなことなのだろうと、思いました。他の病院で10種類以上のアレルギー薬を出されていた子どもさんが、当院を訪れ、半年もかからぬうちに薬がドンドン減っていって、1種類になる・・それから3ヶ月もしないうちに、薬がまったく要らなくなる。これは、私の診療が「消費」としての医療サービスではなく、その子の中に宿る未だ光の当てられていない生命力を稼動させるプロセスを刺激するから達成できることです。自然医療をありがたがる人の中には、西洋医学は悪で自然が一番と考える極端な人も一部にはいますが、なにも、乾布摩擦とハーブティだけが生命力のスイッチを入れるファクターではありません。西洋医学的な手法においても、生命力を賦活する方法は様々あるのです。そこに、統合医療的な手法を取り混ぜることで、ひとつの山でも登り方にバリエーションを与え、患者さんひとりひとりの個性に適った診療を行うのが統合医療の肝ではないでしょうか。

 例えば、薬局でしか手に入らない塗布薬と抗アレルギー薬を手放せなかった子どもさんが、診療過程においてベビーマッサージの自費診療を平行して受療し、力が着いてきて薬が減り、しまいには台所にあるオリーブオイルで、特別な時間をとらずとも、毎日の入浴の時間のうちに皮膚のデイリーケアが出来るようになった・・・としたらどうでしょう?これは、実際にありえる話です。「お薬を飲んでいれば、心身の不調に煩わされることがない。」という安心がその先にすすみ、「特別なクスリがなくても、自分は健やかに生きていく力がある。」のだと理解できれば、自分の命に対する一層の自信につながることでしょう。その自信が勇気になり、回復の過程に拍車をかけ、子どもから大人へと成長していく過程で、病気という誰かのケアを必要とする依存的な状態から抜け出し、自分で自分をケアできる、自分の足でしっかりと立てる、しっかりと歩けるんだという支えになる可能性を引き出すことが大いにあるのです。

 医療にまつわる「モノ」や「サービス」が単に消費されない「創造的」なものであること。
 それが、私たち五の橋キッズクリニックがこの下町から発信できるメッセージです。
 これからも、東京・亀戸という下町で私たちにしか出来ないユニークな診療活動を真摯に積み重ねてまいりたいと思っています。

 うぅ~ん、そう思うと、小児科ってやめられないですね。
 さて、私のクリニックでは、次はどんな「めぐり合い」がまってるのでしょうか。
 季節の替わり目です。みなさん、身体に気をつけて、お互い頑張りましょう!





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