第08回 スーパードクターエッセイ/水沢慵一

スーパードクターエッセイ

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水沢慵一
医療法人社団 五の橋キッズクリニック 理事長(院長)
東京医科歯科大学医学部小児科講師、同付属病院臨床准教授
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第8回 職場と妊娠

 さて今回は、職場と妊娠というテーマで書きたいと思います。幾分、漠然としたテーマですが、ざっくばらんに書ければと思います。

 私の医院では、勤務するスタッフは、私を除いて全て女性です。子どもを持っているスタッフと持っていない(既婚・未婚含む)スタッフは半々くらいです。 昨年はスタッフのうちの大黒柱が、二人目の妊娠・出産という人生の大イベントを向かえ、出産後はこの4月から、赤ちゃんと上のお子さんを抱えての職場復 帰。少なくない数の世の中の女性達が経験していくことではあるのですが、やはり本当に身近な人がそういう立場に立たされると、改めてしみじみと子育ての大変さ、子育てと仕事の両立の大変さを感じます。そして、その大変さは、そのスタッフが出産や産後の育児で休暇をとっている間、残された職場の他のスタッフ も同じように、大変さを感じているのです。とくに休暇中のスタッフのポジションが大きければ大きいほど、現場では様々な困難が起こります。

 当院の例ばかりで恐縮ですが、そのスタッフがいると不思議と院内スタッフの全員の空気がその人ひとりにきっちりと束ねられるのです。彼女がお休みに入って改めて、彼女の存在の大きさ、能力の高さなど、その存在の大切さを感じ入った次第です。

 よく、職場では、女性はすぐに辞めるから使いにくいということで、採用を渋ったり、あからさまに女性採用に乗り気ではない企業があると聞きます。しか し、今回の件で、そういった問題は、(もちろん職種の違いがあるので一概には言えないことはわかってはいますが)、どちらかというと女性達の問題ではな く、雇用企業側の問題であり、もちろん社会構造の問題ではないかと思うのです。
 
 妊娠・出産・育児で、女性の心身の負荷は、それ以前とは比べようもないほどに増加します。だから、女性は働けない…のではなく、だからこそ、働きたいと いう女性は実はとても多いのだと気がつきました。ある負荷が高まると、違った種類の負荷をかけることでその刺激を緩和する、という感じでしょうか。
 当院は土日の診療もやっているので、受診される子ども達のお母さん方は仕事をされている方も多くいらっしゃいます。とても疲れた顔の方もいれば、ハツラ ツとした印象の方、様々です。子育てという核家族の中では、一対一に集約しがちな特殊な人間関係上の負荷が、仕事をすることで多数から必要とされる自分に 自信を持ったり、金銭的な余裕につながったり、また専門的なお仕事では自己実現をしていくことによって、特殊な子育ての負荷が癒されていくのだということ がよくわかります。

 これだけの数の女性が大学や専門学校などに進学し、自我を確立することを高等教育では推奨しながらも、自我の壁を薄くするような働き方や生き方の選択肢 の方が選択しやすい社会の現状というのは、社会の法整備が遅れ、日本という社会体質が体質変化できていないということなのだと思います。スイッチを入れて おいて、あとは勝手に動き回っていなさいといわれたロボットのようで、哀れです。パソコンや携帯の需要が一気に伸びて、一家に一台から、家族ひとりひとり に一台ずつという時代になったように、女性の教育も、結局、開拓分野を女性の教育に充てれば、教育ビジネスも広がるだろうとテコ入れされてきたのでしょ う。経済の歯車の中で、社会を悪者にしながら、教育ビジネス業界の新たなターゲットとして女性は利用されてきました。生涯学習というのが流行っています が、通信講座で資格を取ったところでその受け皿がないのに、「女性」というまだまだ開拓の可能性のあるマーケットを対象にビジネスが行われているのです。 これだけの女性が社会の醍醐味を覚えている時代に、現状に即した社会改革がなされないと、そのうち女性の社会進出は逆にだんだん減ってきてしまうのではと も思うほどです。

 ちょっと話がそれましたが、つまりは、女性の労働には受け皿の問題が大きいということです。それは、当然のことながら、保育園や小学校のサービスや制度にも改善課題があるといえるでしょう。

 当院のスタッフは、みな女性ですから、女性達が働きやすいような環境、条件でないと診療は続けていかれません。女性の数の多少に関わらず、女性のマンパ ワーを使い捨てするような企業には先がないはずです(それは大きい目で見れば、男性のマンパワーも使い捨てしているということでしょうし)。そこで、当院 の残されたスタッフたちは、「自分がとおってきた道の頃にはしっかりとした保証がなく不安だったから」あるいは「来るべき自分たちの妊娠・出産・育児のと きのために」と、これを機会に出産休暇、育児休暇などにまつわるルールを明文化する方向へとスタッフ自身から動き始めました。もちろん、その規定に当ては まらない特殊なケースは個々相談ということになるのですが、そういった面でのルールがはっきりと決まったことで、スタッフ達は安堵しています。「これで、 私の時も、安心だわ」という気持ちがよく伝わってきます。「妊娠・出産・育児などに際して自分は無碍に扱われることがないのだ」という職場への安心感や信 頼感は職場の生産性を引き上げます。それが質の良い業務へとつながり、結果的には経営上でも良い状態へと結びつく大きな要因となるのです。 スタッフが妊 娠・出産・育児のたびにめまぐるしく退職したり、新スタッフの雇用が続いていては、どれだけの負荷があることか知れません。それは単純なオペレーション作 業においても、非常に高い専門業務においても同じことだと思います。

 話が広くなってきてしまいましたが、このエッセイを読んで下さっている方は女性が大半だと思います。 女性であればこそ、世の中のいわゆる「男性的」な働き方とは違った面でぜひ、みなさんのユニークさ、すばらしい個性を発揮して欲しいと思いま す。妊娠・出産・育児で時間的な制約や体力的な制約が大きくなっても、それ以外の面でかならず伸びている能力があるのです。その目には見えない能力を大事 にしてください。特に小児科は母親であること、父親であることが大きな付加価値をもつ領域です。もちろん、まだ母親・父親の立場にはない人も、自分が育ててもらった尊い経験、周囲の子育ての様子、患者さ んからの生の声から学ぶことはたくさんあるのです。
 そういった意味でも、このリンクスタッフさんのようなサービスも活用しながら、皆さんの個性を存分に発揮できる就労先を吟味して、みなさんのキャリアを大事に育てていってください。

 うぅーん、そう思うと・・・だから、小児科って、やめられないんですよね!
 春がやってきます。寒暖の差が激しく体調を壊しやすいときです。これからも体に気をつけて、お互い頑張りましょう。





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