第15回 スーパードクターエッセイ/水沢慵一

スーパードクターエッセイ

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水沢慵一
医療法人社団 五の橋キッズクリニック 理事長(院長)
東京医科歯科大学医学部小児科講師、同付属病院臨床准教授
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第15回 子どもが「キレる」 = 子どもの生活習慣病

 ずいぶんと朝夕は涼しくなったかと思いきや、厳しい残暑が猛暑に疲れた身体に追打ちをかけているこのごろですが、みなさんいかがお過ごしですか?

 私の周りでは、大人たちで体調を壊しかけている人が多いようですが、子どもたちでも同じように、咳が出たり鼻水が出たりと不調の季節です。季節の変わり目ごとに風邪を引くと、その季節のうちに身体に溜め込んだゴミの掃除になります。体温を38度くらいにあげることができると、もっとキレイな掃除になるのだそうです。大人が38度まで熱をあげるというのは、かなり辛い症状ですが、「おや?熱っぽいな…」と思ったら、薬に頼る前に、熱めのお風呂にパッと入って、身体のスイッチを切り替えて乗り越えましょう!

 さて、今回は、風邪の話もさることながら、先だって都内の小学校に招かれて父兄を対象にお話をさせていただいた内容について、みなさんにもお伝えできればと思います。こちらの小学校では、昨年に引き続き2度目の講演をさせていただいたのですが、学校側からの講演テーマのリクエストは「子どもの生活習慣病」でした。昨年は「子どもの肥満」についてお話ししたのですが、今年は、また違った「子どもの生活習慣病」をとらえてみようと思い、子ども達の「キレる」についてお話させていただきました。

 「生活習慣病」というと、大人の世界では「生活習慣病=メタボリックシンドローム」=「肥満」、となりがちですが、子どもの世界では「肥満」と診断される子どもは全体の1%にすぎません。そして、もっと多くみられる、より重大な症状が、「キレる」なのです。「キレる」という言葉が認知されるようになってずいぶん時間が経ちました。少年犯罪のニュースが最近では珍しくなくなってしまうという、恐ろしい事態がいまやありふれた状況になりつつあります。被害者とならないように注意するのはもちろんですが、わが子を加害者にさせないために、家庭では何ができるのでしょうか?
 今回は、医師として統合医療的な立場から私なりの考えをお伝えしたいと思います。

 「キレる」とは何かを医学的な言葉で説明すると、マリヤ・クリニック(内科・小児科)院長、柏崎 良子氏は「ノルアドレナリンが急激に出ると、その前頭葉が麻痺してしまい、理性的な判断が行えなくなってしまうようなのです。つまり、血糖値を上昇させるノルアドレナリンが、大脳辺縁系を刺激すると同時に前頭葉を麻痺させるために、感情が直接的に現れてしまった状態が「キレる」ことだと言えます」と語っています。

 そして、「キレる」メカニズムについては、「低血糖時に血糖を上昇させるために出たホルモンが、結果的に大脳辺縁系を刺激してそのような感情を起こさせるわけです。そのとき、感情をコントロールする大脳がうまく働かないと、キレるという行動に出てしまうのです」として、「低血糖による、内分泌や自律神経の不調和が 「キレる」という行動を誘発」するとも述べておられます。

 このように、「キレる」という現象は「低血糖」と関係が深いことがわかります。そして「低血糖」に子ども達が陥ってしまうのは、子ども達をとりまく粗末な食生活がその理由にあげられるのです。

 街では、夕方頃になると、帰宅途中の制服を着たままの中学生や高校生が、塾に通う前なのか、遊びにでも出かける前なのか、腹ごしらえにファーストフード店でハンバーガーをムシャムシャやっている光景をよくみかけます。また、今年の夏のような猛暑には、口当たりのよい甘く冷たいジュースなどのペットボトル飲料をがぶ飲みしたり、冷えた牛乳や飲むヨーグルトをがぶ飲みして、胃腸の調子がいまいちよくないという慢性の不調を訴える子ども達も少なくありませんでした。

 人間の味覚は、3歳頃までに食べた味が味覚の基礎となるという話がありますが、大きくなってからファーストフードを美味しいと感じるということは、幼い頃からファーストフードに親しんできたとも考えることができるのではないでしょうか。小さな子どもを連れた家族が休日や、平日の簡単な食事としてファーストフード店で食事をしている姿も見慣れた光景です。また、コンビニの弁当やスナック菓子を食事に与える親も少なくないと聞きます。こういった食事では、たしかにカロリーにおいては充分すぎるほど摂取することができますが、肝心の大事な栄養素に欠く食事であることはみなさんの周知の通りです。

 そして、ペットボトル症候群とよばれる「慰み」としての性質をも兼ね備えてしまった現代のペットボトル飲料は、過剰に精白された砂糖分を摂取する原因ともなり、その結果インシュリンの急激な分泌を増加させます。そうなると、身体は低血糖の状態に陥ります。

 そんなときに、外部からの処理しきれなくなったストレスが引き金となると、ストレスは理性を超えて爆発し、感情がそのままストレートに行動に現れた結果が「キレる」ということになるわけです。そして「キレる」というコントロールしがたい衝動に、子ども達は翻弄されてしまっているのです。

 また、現代社会全体がそうなのですが、夜型化する子供たちの生活も問題です。眠りにつく時間が遅くなると、メラトニン分泌が低下して、感情を司るホルモン「セロトニン」の分泌も低下します。その結果、慢性的に心が満たされない、空虚、不安、やる気が出ないといった精神状態を感じるようになるのです。

 それならば、家庭において、どうすればよいのでしょうか?

 まず第一に、あたりまえのことですが、食事をきちんととるということが挙げられます。心身の維持、成長に必要な栄養素を充分にとれるしっかりとした食事が必要です。しかしながら、核家族化した家庭が多い現代において、食事を毎回しっかり手作りするということは、もはや困難な状況であることも時代の流れの現実です。そんなときには、手作り惣菜を上手に利用して、必要な栄養分を補う工夫をしてはどうでしょうか?
 例えば同じメニューなら冷凍食品を電子レンジで温めて食べるより、少々値が張ってもその場で手作りのお惣菜を買い求めるというのは、家計簿上ではマイナスかもしれませんが、心身の貯金となって蓄えられるものです。

 そして、豊かな栄養分と勝るとも劣らないほどに重要なのは、おいしく、楽しくたべるということ。子どもが一人ぼっちで、テレビを見ながらの食事はどんなに栄養価が高くとも、心と身体の栄養にはなりません。家族で食卓を囲み、その日あったことなどを会話しながら食べるということが、栄養価を本当の栄養にしてくれる、大事な要素なのです。

 また、消化器官に負担をかける乳製品の摂りすぎを改善するのも、手軽に始められることのひとつです。消化器に負担がかかりすぎると、臓器の性質として、気持ちが不安定になります。食物をじっくりと消化して皮肉に行き渡らせる栄養へと変化させる肉体的な能力は、精神活動におきかれば、衝撃やストレスをじっくり消化して心身の栄養にまで高めるということと同義なのです。砂糖や乳製品がまるで栄養の三種の神器であるかのような、古い栄養学に振り回されていませんか?

 そして、心理療法も有効な方策としてあげられ、こうした心と身体、両面からのアプローチが大切なのだと思います。

 よい生活習慣は、心と身体を健やかにもさせ、また病をも治癒させる礎となるのです。長い時間の習慣でできた症状は、長い時間をかけて、生活習慣の中で改善していくより他に最良の策はありません。

 子どもの生活習慣病に取り組んでいくとなると、院内でできることはといえば、まず表層的な症状への投薬から、生活上の食事や睡眠の指導、食べ物のとり方、心のケアなど、実に様々な角度から対応することができるはずです。核家族という家族状況を考えると、簡単で栄養豊かな食事・離乳食のメニューとレシピの具体的な指導もやりがいのあることだと思います。カウンセリングとまで肩肘をはらずとも、ちょっとした合間の時間で、看護師さんと患者さんとの会話のなかの何気ない一言が、患者さんの心を癒すことだってあるのです。

 多面的な症状に対して、一人の医師だけでできることは多くはありませんが、関係する専門家たちに活躍の場を提供したり、意見を集めて患者さんに伝えていく。

 「生活習慣病」という1つの山を登るのでも登り方は実にさまざまなのですね。

 うぅーん、そう思うと……だから、小児科ってやめられないんですよね!

 さあ、秋へあとひといきです。涼しくなった夜には身体を冷やさないようにして、夏の疲労回復のために睡眠時間を十分にとりましょう。
 また次回、お目にかかります。





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