第16回 スーパードクターエッセイ/水沢慵一

スーパードクターエッセイ

スーパードクターエッセイ

水沢慵一
医療法人社団 五の橋キッズクリニック 理事長(院長)
東京医科歯科大学医学部小児科講師、同付属病院臨床准教授
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第16回 「おしゃぶり」を与える?与えない?

 残暑厳しいと思っていたら、もうすっかり秋になりました。皆さんお変わりありませんか?今日は、先だって新聞に掲載されていたエッセイから、感じたことを皆さんとシェアしたいと思います。

 過日、「おしゃぶり代わりに野菜!」というタイトルで、歯科医師のユニークなエッセイが紹介されていました。
 著者である医師・安田登氏が歯科医らしい清潔感のある白く美しい歯を覗かせて、爽やかに微笑んでおられる写真が印象的で、私も安田氏の考えに同感だと強く感じました。

 その内容をかいつまんで紹介すると、「…(略)…日本より先にというか、ずっと昔から野菜を大切にしていたのは、フランスである。…(略)…パリにいた頃(ころ)の野菜話。乳母車の幼児の手にセロリが握られているのをはじめて見た時は、何かの見間違いかと振り返った。でも人参(にんじん)をにぎっている子もいて、どうやら野菜がフランスの赤ん坊や幼児のおしゃぶり代わり、と気づいた。…(略)…お菓子を安易に与えず、歯によし、適度な硬さがあごの発達によし、そしてそうやって、本来の野菜の旨味(うまみ)をインプットされた赤ん坊は、今頃立派な大人である。…(略)…野菜スティックおしゃぶりのもうひとつの効能としては、砂糖などがほとんど含まれていないからむし歯になり難い。子供の頃に甘いものを多く摂取して育つと、大きくなってから、生半可な甘さでは満足せずに次々と甘いものを欲しがる、と言う弊害もない。前述の教授の息子、大きくなっても、セロリのうまい、まずいの嗅(か)ぎ分けには才能を発揮したそうだ。そう考えると、セロリをおしゃぶり代わりに与えるのは、実に理にかなったものかもしれない。」ということなのです。

 つまり、歯固めのために、おやつや「歯固めのための歯固め」を与えるのではなく、野菜を使えば歯固めにもなり、味覚を発達させることにもなる…ということが、筆者のフランス生活時代の経験から書かれているのです。
 たしかに、街をみわたすと小さな赤ちゃん達はベビーカーに座ってお行儀よくしています。そして、その赤ちゃん達の口にはいわゆる「おしゃぶり」がお行儀よくチュウチュウと吸い付けられています。

 「おしゃぶり」の効能については、おしゃぶりのメーカーが一生懸命になってその必要性と素晴らしさを説いていますが、樹脂でできた人工の「おもちゃ」を長い時間くわえさせておくわけですから、本来の人間的な行為ではないのには違いありません。
 つまるところ、口とは、食べるものや飲むもので、自分の栄養になるものが入ってくる穴です。「おしゃぶり」の機能的な効果というのはたしかにあるには違いないのですが、それをわざわざ樹脂に置き換えなくてもよかったのかもしれません。

 樹脂(=食べるものではない)を口に慣らすとどういうことが起きるか。それは、食べられないものを口に入れることに危機感が薄まります。私たち生き物の舌というのは、非常に高感度のセンサーです。食事の中の小さな異物、腐敗味などすぐさまに選り分け、口外に排出しようと舌が自動的に反応します。
 その反応がうまくおきないとどういうことになるか…。小さいお子さんによくあるトラブルですが、食べ物ではないものを飲み込んでしまう「誤嚥・誤飲」がおきるのです。誤飲がおこるのは、その赤ちゃんの舌が「食べ物」と「食べ物でないもの」の見分けができないからなのです。
 例えば、小さな事務用クリップを赤ちゃんの目の前にばら撒くと、みな揃って手を伸ばし、眺めて、舐めてとやり始めます。そして、しばらくみていると、「これは食べ物じゃないや」とわかったのか、口から吐き出します。舌センサーでチェックをして、「食べられない」と判断すると、「ベーっ」と吐き出すのです。しかし、赤ちゃんのなかにはそれができない子がいて、間違ってそのままゴックンと飲み込んでしまうのです。そして、親御さんは慌てて小児科へ走る、わけです。

 「食べ物ではないものも、赤ちゃんが舌で検査する余裕を与えてあげるべき」ではないでしょうか。

 ちいさなクリップなど、口に入れたらすぐにケガをするような危険なもの(カッターの刃やホチキスの針などはとても危険です)ではない限り、しばらく様子をみているとよいのですよね。もちろん、ムリにすることはありませんが、口に入れた途端に「危ない!」と言ってすぐに取り上げるのではなく、赤ちゃんがそのものが何であるのかを認識する時間を与えてあげると良いのです。そうして「食べ物ではないもの」を見分けられるようになった赤ちゃんは、誤飲のトラブルを起こすことがないということなのです。
 それに加えて、冒頭でご紹介した野菜の歯固めは、「食べ物でない」ものの識別を積極的にさせるだけではなく、「食べ物」を覚えさせていくわけですから、舌の機能的・味覚的な発達への効果はとても大きいでしょう。

 あえて、こうしてあらためて取り上げられている内容ではありますが、良く思い起こしてみると、周囲の子沢山の家庭のお母さんから聞いた話では、小さい赤ん坊が、母親の家事の合間にきゅうりそのままを洗って、半分くらいの長さに切ったものを与えられ、カジカジと試す・眇めつしているとか、にんじんも与えておくと、かじりついてとてもおとなしいのだとか。嫌いな野菜の代名詞であるピーマンも、手にフィットする柔らかい感じがよいのか、愛しそうに小さな手で握っておしゃぶり代わりになるのだ、と聞いたことがあります。

 現代では、おしゃぶりも、哺乳瓶も、おもちゃも、なんでもかんでも、「除菌!殺菌!」と目くじらを立てる傾向がありますが、赤ちゃんは床のほこりも食べてしまうような好奇心と生命力に溢れています。洗濯物ひとつとってもそうですよね。除菌・殺菌するということはそれだけ、生命力を殺す成分が衣服に付着するということに他なりません。

 美味しい野菜。できれば家の裏の畑で掘りたての…なんて事があれば良いですが、都会ではそうもなかなかいかないので(田舎ならそんなご家庭も多いことでしょうが)、スーパーで新鮮な野菜を購入することが多いと思いますが、低農薬の有機野菜などは確かに美味しいものがあります。
 また、赤ちゃんの歯固め用にベランダ菜園をするというのを、忙しい子育ての中での楽しみの一つにしても良いのかもしれません。現代の密室になりがちな育児がベランダ菜園の野菜をきっかけにご近所仲間と交流ができたりするのもいいですね。

 小児科が小児科診療にとどまらず、お茶飲み話もできてしまうような、ベランダ菜園を通して、お母さん方とこんな話までできるような小児科医院を作りたいなあと思うこのごろです。

 うぅーん、そう思うと…だから、小児科ってやめられないんですよね!来月お目にかかるときにはきっと、セーターがいることでしょう。乾燥は健康の大敵。お風呂上りの身体がぬれたまま植物油を塗ると簡単でナチュラルに保湿ができます。また次回、お目にかかります。





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