第28回 スーパードクターエッセイ/水沢慵一

スーパードクターエッセイ

スーパードクターエッセイ

水沢慵一
医療法人社団 五の橋キッズクリニック 理事長(院長)
東京医科歯科大学医学部小児科講師、同付属病院臨床准教授
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第28回 秋の気配と喘息

 あちこちできかれた祭囃子もようやく落ち着いて、街のショーウィンドーには冬のファッションが気早く飾られています。乾燥が厳しくなってきていますが、みなさん、おかわりありませんか?

 さて、今月は、この季節の変わり目に多い喘息についてあらためて触れたいと思います。乾燥が急にひどくなって、朝晩の寒暖の差が大きくなってくると、胸周りが冷え、呼吸器の症状が現われやすくなります。これまでの寄稿の中でもご紹介しましたが、「秋」という季節は東洋医学において「皮膚・大腸・肺」のグループと同じ仲間です。
 この考え方は非常にユニークで想像力に富んでいます。身体の各臓器や部分から、森羅万象までを5つのグループに分け、それぞれのグループには、対応する食べ物、色味、音、体操法といったさまざまな、人間が生活に必要とする要素が含まれています。それがゆえに、東洋的な療法においては「病気になったから治療をする」という西洋医学的なアプローチに加え、「未だ病気になっていない」=「未病」(みびょう)という状態を防ぐ「養生法」としても江戸時代までの日本において庶民に受けいれられてきた歴史を持ちます。
 江戸時代の後期は、現代社会とちょうどよく似た社会背景があり、経済不況が人々の心に閉塞感を生み出し、その結果、人々の価値観が変化し、例えて言えばかつての日本において見られたバブル期のような「派手できらびやかなもの」から「シンプルで自然的なもの、家族や自分自身の健康」などへと人々は興味の対象を移していくのです。貝原益軒の「養生訓」が好んで読まれたのもこの頃です。

 話を元に戻しましょう。
 そんな喘息のはやる季節に、あらためて皆さんにお伝えしておきたいと思ったことがあります。
 私のクリニックでは、西洋医学とその他の自然的な医療を合わせた「統合医療」を方針として掲げて日々の診療に当たっています。そんな中、おかげさまで数々のマスメディアにも取り上げていただき、遠方からも様々な患者さんが来院してこられます。マスコミを通じた影響力は大きく、「自然医療」を取り入れているということをテレビでご覧になって、自然療法や自然的な生活を徹底しておられる患者さんが遠くから来院されることも少なくありません。しかし、今回あらためて喘息を取り上げるのは、徹底した自然主義の患者さんの中に、西洋医学を「ワルモノ」のようにとらえ(嫌悪感に似ているかもしれません)、ともかく一切の薬をこばむという方もおられ、そんなアプローチは時として非常に危険な場合もあるということをお伝えしたいからです。
 私の治療方針は「統合医療」であって、自然医療のみではありません。ですので、いわゆる「クスリ」はノーという親御さんには、はっきりと診療をお断りしています。完全自然主義の患者さんはがっかりなさってお帰りになることもあるようです。たしかに、自然な生活、自然に即した衣食住は都会生活者にとっては憧れです。それがゆえに、一部の方は周囲から見ればエキセントリックに思えるほどに、ハーブやアロマ、サプリメントといった自然・伝承医療、補完医療的なアプローチに突き進んでいかれる方がおられるのかもしれません。そして、また、不思議な事に、とても熱心にそういった信条をお持ちの方のお子さんには、症状の程度が重く現れておられる場合が多いようにもうかがえます。これはすべてに当てはまることではないと思いますが、私の診察を受けに来られる患者さんの中では、そのようです。

 そういった方々には、アトピー性皮膚炎の症状が多く見られますが、アトピーがある場合、喘息を併発する場合が少なくありません。ないしは、しばらく時間を置いた後、喘息へとアレルギーマーチを進展していくこともよくあるケースです。
 特にそんな方々に、あらためてお伝えしたいことは、「喘息」という病気は、たしかに、「日常のケア=体力をつけたり、皮膚を乾燥させないようにしておくこと」が発作を起きにくくしてくれるので、自然医療の出番が多いのは事実なのですが、いったん喘息の徴候・発作がおこった場合には、「大丈夫かな?」と思っても、まず、医療機関で西洋的な投薬や吸入のアプローチを受けてほしいということです。
 なぜなら、発熱が原因ですぐさま死亡へとつながることはまれであっても、喘息の発作は死亡につながることがあるからです。
実は、こんなケースがありました。
 ある幼い3人兄弟の話です。一番末の子がそれまでに何度か喘息の発作を起こしていたのですが、ある日、親御さんの外出の折に仲良く家で留守番していたとき、突然、喘息の発作に見舞われたのです。残りの兄弟は苦しむ弟にどうしてやっていいのか分からず、親御さんが帰宅したときには、そのお子さんはすでに亡くなってしまっていた、という痛ましい事故です。
 その亡くなったお子さんも、発作の際には「吸入をする」ということが分かっていたようなのですが、なにせ本人もまだ小さく、兄弟含めた子ども達だけではとっさの対処ができなかったのです。
 こういった心痛極まりない事故がおきると、喘息のセキひとつにつけても大事をとるということの大切さを強くかんじるものです。しかしまた、社会生活を営む以上、仕事をもつお母さんたちはちょっとした病気ひとつのためには休めないといったような事情で、子どもの症状や家族、自分自身の症状も見てみぬ振りをしてしまうという現実があるのも事実です。

 季節の変わり目と本格的な寒さが始まる頃には、身体の変化に留意していただきたいものです。特に、喘息の症状には気をつけて。まだ大丈夫だろうという過信は禁物です。
 心配な時は、無理をせずに、かかりつけ医に相談をしていただければと思います。
 当院では、喘息発作の場合の外来は、混雑時であっても診療の順番を繰り上げて診察しています。他の医院さんでもそういうところが多いと思います。
 医療における洋の東西、各種医療が持つ歴史の深浅を問わず、心身に故障のあるときには、後回しにせずに自分自身でいたわる、周囲がいたわってあげるというのは本当に大切です。特に子どもや高齢者の場合は周囲の目が不可欠です。

 うぅーん、そう思うと、小児科ってやめられないですね。
 病気の「予防」とすばやい「治療効果」、統合医療にできる大きな可能性に夢膨らみつつ、この秋も、冬に備え心身に留意して、みなさん頑張りましょう。
 また次回、お目にかかりましょう。





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