第26回 スーパードクターエッセイ/水沢慵一

スーパードクターエッセイ

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水沢慵一
医療法人社団 五の橋キッズクリニック 理事長(院長)
東京医科歯科大学医学部小児科講師、同付属病院臨床准教授
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第26回 プルメリアの花から思うこと ー診療における感覚の大切さー

 夏休みもおわって、今年も残り1/3となりました。残暑きびしい折、みなさんお変わりありませんか?
 この夏休み、私は前回ご紹介したフリーダイバーであり、水中写真家の菅原真樹さんのもとを訪ねました。彼は現在、自身が編み出したオリジナルのナチュラルセラピー(セルフセラピー)を提供する滞在型の施設カロコハウスを運営しています。
 訪問のたびに心を潤す豊かな経験をさせていただいてきましたが、今回の訪問では、これまでにないまた特別な出会いを経験することができました。

 わたしたち家族が真樹さんを訪ねると、すでに1ヶ月の長期滞在で日本からきている15歳の女子生徒がふたりいました。話をきいてみると、どうやら、日本の学校になじめず、居心地の悪い思いをしているとのこと、しばらく時間をかけてハワイの自然に守られ、そしてふたたび日本へ戻る準備をしているようでした。当初、彼女たちとの交流に抵抗を感じていた私たち家族も、一緒に食事をしたり、薪割りをして五右衛門風呂を沸かしているうちに、しばらくすると彼女たちとの心の壁は消え、家族的な思いをもつようになりました。私たち家族もまた、なにかのきっかけで同じ状態になるときがあるかもしれないと思うにつけ、単なる同情ではない、彼女たちの気持ちを理解する=共感することができるようになっていったのです。
 詳しい話はここでは遠慮しますが、そういった、何か問題が起こった時に人の心と体をいやしてくれる自然の力、そしてそういった自然の力を必要とする人たちに、その力を伝える真樹さんのような「パイプ役」を請け負った人たちのありがたさを感じます。そして、ふと顔をあげると、美しい花々の咲くハワイという不思議な土地で感じたことを今回は書いてみたいと思います。

 ハワイに行くと、花輪「レイ」に使われる花「プルメリア」があちらこちらに咲き乱れています。エキゾチックで、はかなくも柔らかにひねりがかかった花の形。姿も香りもユニークで人の心を明るくしてくれます。
 現在、私のクリニックでは「統合医療」的な取り組みとして、ベビーマッサージやアロマセラピーを取り入れています。「統合医療」と一口にいっても、さまざまな形がありますが、当院での西洋医学的な診療以外の部分は、統合医療の中でもとくに自然な療法に傾倒したものです。ハワイの美しいプルメリアのように、自然そのものの姿は、それに触れる人に喜びと安心と、健やかさを与えてくれます。
 少し話がそれますが、私はハワイを訪れるとまるで故郷に帰ってきたような気分になります。フラの歌声と太鼓の音は、まるで遠い昔に聞いた子守唄のような懐かしさがこみあげてきます。その理由が何なのか私にもわかりませんが、私のこの日本人らしくない顔・体つきは、ハワイにいるとその風土や人々にしっくりとなじみ、とても居心地が良くなるのです。
 そんなふうに、人には本来、その人がもつ快適なバイブレーションがあるのではないかと思うのです。それは、たとえば私のようにポリネシアン文化に呼応する人がいれば、ヨーロッパ的な文化に呼応する人もいる。アジアの文化に呼応したり、日本の伝統的なもの、ないしは現代的なものに快さを発見する人もいるでしょう。そして、その固有のバイブレーションはそれぞれにニュアンスが違えども、多くの人が共振することができるのは「自然」ないしは「自然にちかいもの」です。それは、ひとえに私たちの命、存在そのものが自然の産物であるからです。自然のもたらしてくれる「味、色、形、におい、音、空気感」・・・五感と第六感を快適に刺激され保護を受けるとき、人は健やかに生きることができると思います。
 しかし、その快適な刺激と保護を、私たち医療者はどこまで医療の現場で実践できるのでしょうか。西洋医学で使われる多くの薬品は、自然の産物を原料やお手本に開発・製造されたものです。しかし、人間は薬一つですべてを癒されるほどにシンプルではなく、また、逆もしかりで、友人の何気ない一言で癒され、みるみる回復していくというシンプルな存在であるともいえます。

 統合医療を当院の診療の柱としてから3年目、今年はベビーマッサージが本格始動しました。今年の冬に始まり、約半年の間、のべ100名ほどのベビーと子どもたちが受療されました。ベビーマッサージの効果は実にさまざまです。2回の受療を基本としていますが、一回だけ来てあとは来ない方、連絡もなしに一度もこない方、何度も受療なさってメキメキと調子がよくなっていく子。実に経過はさまざまですが、多くの方は受療なさったことをプラスにとらえてくださっているようです。
 ベビーマッサージには、30分という長くはない時間のなかに、5つの感覚と第6感がぎっしりつめこまれています。細かくお話ししましょう。
 まずは、「色」。施術に使用するオイルやクリームの自然の色は、お母さん方の興味の対象です。自然な色というのはそれだけで人の気持ちを和らげてくれるようです。また、体の表面の色の変化には、回復への様々なカギがかくされています。黒ずんだところ、色が抜けているところ、赤いところなどなど、それぞれにメッセージがかくされています。
 次に、「形」とは、人間の形をあらためて認識する作業。具合がいまひとつよくないお子さんのお母さん方は、赤ちゃんに触れることに抵抗を感じていることがしばしばあります。「触ったら壊れてしまいそうなので、こわくて触れない…」とおっしゃる方が意外にも多いのです。また、兄弟やほかの家族に手をとられてしまって、赤ちゃんにふれる時間がどうしても少なくなってしまうというのもよくあるケースです。そんなお母さん方に骨格や筋肉をあらためて認識してもらい、触り比べてもらったり、大きく動かしてもらったりすると、「へぇ、こんなにかわるんですね!」と驚かれることが少なくありません。
また、「におい」には、赤ちゃんや子どもがもつ特有のにおい、そしてお母さんのにおい、施術者のにおい、その場所のにおい、使用するオイルやクリームのにおい。様々なにおいがあります。
 それから、「音」には、施術の際に赤ちゃんが発する声、音、お母さんの話す言葉、リラックスしたお母さんふと洩らす一段低い声。施術者が説明する声、赤ちゃんとコミュニケートするための特有の声音。
 最後に「味」とは、施術が終わった後に赤ちゃんが吸いつく母乳の味、お白湯やお茶の味、少し大きな子供がうれしそうに食べるキャンディーの味。お母さんに飲んでいただくハーブテイーの味。
 そして、それらすべてが執り行われる特別な空間に漂う「雰囲気」。ベビーマッサージのわずか30分には、これらすべての感覚が凝集されているのです。
 しかし、もちろん、これはベビーマッサージに限ったことではなく、私の診療では診察室内で日々繰り返していることでもあります。療法の東西に限らず、また薬を使う使わない、注射をチックンするしないに限らず、医療というサービスには自然から与えられた感覚を大切にすることが必要ではないでしょうか。感覚を大切にすることで、患者さんは自分が大切にされたと感じ、癒される力をおのずと増していくような気がします。 

 この夏、ハワイという特別な場所で、楽しそうに咲いているプルメリアをみているほんの束の間に、改めて気づかされる統合医療的アプローチの大切さ。気分転換が与えてくれるインスピレーションはありがたいものです。ちょっとした気分転換が日常生活の中で上手にとれるようになるといいものです。育児・家事・仕事に忙しいお母さん方も、気持ちをつかのま解放してあげてください。きっと、お子さんもふっと気持が軽くなって、元気の力を増してくれるでしょう。
 うぅ?ん、そう思うと、小児科ってやめられないですよね
残暑厳しい季節です。くれぐれも体調には気をつけて、おたがいがんばりましょう!また、来月お目にかかります。





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