第29回 スーパードクターエッセイ/水沢慵一

スーパードクターエッセイ

スーパードクターエッセイ

水沢慵一
医療法人社団 五の橋キッズクリニック 理事長(院長)
東京医科歯科大学医学部小児科講師、同付属病院臨床准教授
<プロフィール>

 
バックナンバー

 

 

第29回 最後に伝えたいこと

 随分、急に肌寒くなりましたね。
 これまで、ことあるごとに 「身体を冷やすのはよくありません」「身体を冷やすような食事や生活習慣を見直しましょう」と繰り返しお話ししてきました。こんな寒い季節には体調を崩しやすいものですが、皆さんいかがおすごしですか?
 私のクリニックにも多種多様な状態の小さなお子さんが、お母さんたちに連れられて毎日大勢みえます。40度の発熱が5日も続いている子、10回以上も嘔吐して真っ青な顔色してふらふらしている子など具合の悪い子もいれば、元気におもちゃで遊び、水槽の魚たちと話をしながら鼻水を垂らしている子もいます。
 そんなとき私が診察室で常々目指しているのは、「統合医療の実践」です。
 
 急激に具合の悪くなった子には、点滴により抗生剤やステロイド、気管支拡張剤を投与し、吸入し、酸素をマスクでかがせ、鼻汁を吸引し、血液で炎症の状態を知り、血液ガスで呼吸状態や体液バランスを評価し、同時に8種類もの迅速診断キットを活用して原因検索をします。
 まずこうした西洋医療をドーンと精力的に駆使することで、熱がさがり、咳がおさまり、吐き気が止まり、元気な姿に近いところまでもどしていく。つまり「目の前で結果をだす」ことで、不安でたまらないお母さんたちに安心してもらうことができます。それはいわゆる西洋医学が最も得意とする分野なのです。
 しかし慢性のアトピー性皮膚炎や喘息のお子さんはそうはいきません。最初はステロイドの軟膏や吸入などで、まずは皮膚のかゆみをおさえ、咳をしずめ、夜眠れるように状態の改善をはかります。
 次に継続して通院してくる段階になれば、現在の状態の評価、処方内容の継続状態(服薬コンプライアンス)の確認だけではなくて、今後の薬物治療の方向性の相談、掃除や布団カバーの使い方などの指導、食育の話し、洗剤やシャンプーの種類・使い方など生活のなかで改善や工夫を凝らしていく点に重きをおくようにシフトしていきます。
 また何故具合が悪いのか、一緒に理由を考えるようにしています。
 たとえば何故、夏の暑い時期には肘や膝裏、首筋などの湿疹が悪いのか?( →汗がたまりやすい場所だからかぶれるのであって、アレルギー症状としての湿疹自体が悪いのではないと推測するわけです)
 たとえば喘息のクスリは一生使い続けなければいけないのか?( →季節やこどもの状態によって予防治療の程度・期間を見直しすることで、マニュアルやガイドラインをメリハリの利いた生きたものにするよう心がけています)
 対照的にまだ、くしゃみや鼻水が出始めたばかりのお子さんの場合には、当院で推奨しているバームによって、鼻汁や痰をやわらかくして、家で鼻汁吸引ができやすくするようにしたり、熱めの風呂に入浴して「熱がでたと身体に勘違いさせ、自分の免疫を活発にするようにする」ことで、クスリよりもよほど効果をあげています。一方で薬の多くは鼻汁はとまっても鼻が詰まったり、痰がからんできたりと、生理現象とは逆の方向に働いてしまうことが多いのです。
 ある意味で、優れた治療というのは、「いかに生理現象」に近づけていくか ということにつきるかもしれません。
 こうした急性・慢性それぞれの病気に対する統合医療の実践には、どれほどたくさんの「引き出し」をもっているかが非常に大切です。それには常に新しい知識や経験を求めて、学んでいく姿勢が大切だと思います。
 
 医療は長い経験を積み、自信をもてばもつほど、自分の学んできたいわゆる得意な分野の診療方法に偏りがちなものです。これは西洋医学や補完代替医療のどちらにもあてはまることです。自分の得意な分野は正しい、知らないことはうさんくさいといった「井の中の蛙」的発想は非常に危険です。
 私の目指している「統合医療の実践」は、こうした垣根を取り払い、常に患者さんの心と身体を両面から癒していくのに必要な具体的方法の集大成なのです。
 
 私はこれまで、「その道のプロ・専門・最先端・草分け」といわれる方々を師と仰ぎ、エッセンスを効率よく吸収し、それを患者さんたちに還元してきました。しかし今後はそうした懐・引き出し・エッセンスを多くの後輩たちに伝え、同時に自らが新たな分野で最先端を行く、先駆者になろうと決心しました。
 そのためには入念な準備と勉強が必要で、その準備のため、突然ですが今回をもってこの校を終了させていただきます。
 校を終えるにあたり、私の座右の銘を紹介いたします。
 「灯火念々」(ともしびねんねん) です。
 仏典に「灯火は念々に滅するといえども、光ありて暗冥を除き破る」とあります。「ろうそくの灯は、わが身を削っていくけれど、明るい光を放って暗闇を照らしてくれる」という意味です。
 私はけして自己犠牲の勧めをしているのではありません。人々を照らし、大事を成すためには、大きな覚悟をもってのぞみなさい という意味でもあるのです。
 
 永い間、ご愛読ありがとうございました。
 近い将来、またお目にかかれることを楽しみにしております。
 
20年12月
五の橋キッズクリニック 理事長 水沢 慵一





ピックアップバナー
コンテンツ
  • 黒岩知事インタビュー
  • ホスピタルインフォ
  • ビギナース
  • Re:ナース40

Cafe de Nurseおすすめコンテンツ


スーパードクターエッセイ

黒岩祐治の頼むぞ!ナース

ナース漫画【N’Sマンガ】

黒岩祐治プレミアムインタビュー