第01回 スーパードクターエッセイ/水沢慵一

スーパードクターエッセイ

スーパードクターエッセイ

水沢慵一
医療法人社団 五の橋キッズクリニック 理事長(院長)
東京医科歯科大学医学部小児科講師、同付属病院臨床准教授
<プロフィール>

 
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第1回 こどもとともに—「可能性」をひめた小児科—

 はじめまして、東京江東区亀戸で五の橋キッズクリニックを開業しています水沢です。

 小児科というと、相手が子どもであるということだけで、大人の病気と同じように、実に様々な病気と日々接しています。もちろん、大人に比べれば症状がひど くなることは稀ですが、子どもであるがゆえに、コミュニケーションがうまくとれずに大丈夫だとタカをくくっていたものが急変したりということもあり、そう いった難しさをもつ科でもあります。

 さて、私が、初めての寄稿でみなさんにお伝えしたいのは、そんな、小児科の難しいとされる側面ばかりではありません。たしかに、「難しい」とされるのは、 診断のみならず、経営的な面においても他科と比較すると「難しい」のではあると思いますが、その難しさデメリットとされる部分の内側に隠されている、小児 科においていまだ発揮されていない科の持つ「飛躍的な跳躍力」についてお話ししたいと思います。

 「小児科の跳躍力」って何だろう?・・水沢は一体何をいいだすのだろう?とお思いでしょうか?一般社会の場になぞらえれば、小児科という場所のユーザー が、こどもであり、主たるコミュニケーターが小児の母=女性です。これによって、これまで他の科に比べてないがしろにされ、無視され、その本領を発揮され ずに来たということなのです。と少々言葉を荒げて訴えるのは、実は、これは、私が実際の診療の中でお母さんたちとのコミュニケーションから学んだこと= ユーザーの声のひとつなのです。社会と政治の現況がそこに見えてくる、ミクロの世界なのですね。しかし、このテーマは後の寄稿でよりくわしく書くことにし て・・現在私が大変興味を抱いている点についてこれからお話したいと思います。それは、今回のタイトルでもあります小児科の秘められた「可能性」について です。
そして、それを実践する具体策が今回の本題の「アロマ」です。

 私は現在、アロマセラピーをクリニックの診療に導入しようと新たな挑戦をしています。開業して5年が経ち、一時のマスコミからの影響も落ち着いてきた今、 「前途洋洋たる未来をもつ子どもたちのために開業医として自分がどんなことができるのか」を考えたうえ辿り着いたのがアロマセラピーでした。もちろん、ア ロマセラピーだけではありません。西洋医学の不得意な分野をアロマセラピーを初めとした古今東西、世界中に根付く伝統医学を、西洋医学の補完的に活用して いきたいというのが私の気持ちです。こういった診療方針は「統合医療」と呼ばれ、昨今大変注目を集めています。

 では、なぜ「可能性」が「秘めた」なのか・・。それは、その「可能性」が、一見、高いハードルに四方を阻まれているように見えるからなのです。

 というのは、この数ヶ月実際的にアロマセラピーの導入のために準備を進めてきたわけですが、最後にぶち当たったのは、「価格の壁」なのです。もちろん、ど んな商売においても、金額、価格は大変重要な項目です。しかし、それが小児科の場合、ユーザー(お客さん=患者さん)からの主観的な価格の壁のみならず、 実は、もうひとつ、厚生労働省という「国」の価格の壁があることに気が付いたのです。

 現在東京都内では、6歳までは乳児医療券制度があり、保険診療での自己負担分を全額国がカバーしてくれます。医療証さえもっていいれば、どの病院に行って、何の薬をいくらもらっても、点滴しても検査しても、「タダ」なのです。

 これは一見、育児に金のかかる若い世代の親たちには、受けがいいですよね。でも皆さん、いくら体のことだからといって、タダというのはおかしいと思いませんか?何か弊害が実はあるのでは?と思いませんか?

 アトピーのこどもたちが、保湿剤として毎月200-300gも「タダ」でもらっていく保湿剤は、鉱物油で精製されたワセリンです。保存剤も入っています。 これを私たちはもっとも安全な保湿剤として処方していますが、実際には日焼すると皮膚が黒ずむ、長期連用でいわゆる「ワセリン」肌という状態になるなどの 弊害には目をつぶっています。

 正当な自費診療分を払えば、安全な自然な製品が手に入ることはしらずにです。

 つまり今回のテーマのアロマに関していえば、正当な「自費診療ができにくい」という壁なのです。もし導入検討をはじめた当初にこの点に気がついていたら、 アロマセラピーをやろうとは決めなかったかもしれません。それほどに、国が「子ども」という隠れ蓑で「まもる」何か:利権は大きいのです。私はここで社会 的な運動をおこしたいわけではないので、これ以上の話は今回のテーマとはズレますし、やめておくことにしましょう。これだけ、国に「守られた」小児科です から、実際にテコ入れをしようとすれば、政治的にも実に開拓の余地の大きいことがわかります。

 しかし、いま、社会や政治をさておき、「アロマセラピー」という伝統療法に純粋に思いを馳せるとき、いかにアロマセラピーが子どもたちの心身の成長の助け になるものであるのかに驚きを禁じえません。そのアロマセラピーは、現実において、主に産婦人科領域での導入が進んではいるものの、そこで生まれた赤ちゃ んのケアやすくすく大きくなっていく子どもたちの小児科へと舞台を移すと、その多くがアロマセラピーとは無縁であり、少なくない数の医師がアロマセラピー という“あやしい非医療”を批判するという現状にあるのです。それは、実際に活躍する多くの在野のアロマセラピスト(自身の妊娠・出産経験を活かして活躍 する女性のセラピスト)たちが、アロマセラピーこそ女性や子どもたち(そして高齢者)のケアに積極的に用いられるべきであると考えている事実とはまったく 180度正反対の状態なのです。

 結局、その小児科へのアロマセラピー進出を阻む(統合医療を取りいれにくい)のは、いわゆる無料診療の「価格の壁」・・小児医療制度によるいわば弊害なのではないかと思うのです。

 小児科にアロマセラピーを導入できたら、どんなことがおこるのでしょうか?今から私はそれが楽しみでなりません。
どんな反応を患者さん方がみせてくれるのか?

 現在、導入準備は最後の詰めの段階になってきています。小児診療が「無料」という「魔法」にかけられ、より能動的なかたちで子どもと自身をケアしていくと いうことを忘れさせられていた親と子どもたちはどんな反応を示すのでしょうか?競合医院の多くはどんな顔をするのでしょうか?

・・・小児科と呼ばれる分野でのアロマセラピー導入実績は現段階において日本において数えるほどしかありません。私は自身のクリニックやその他の小児科で より多くの医師がアロマセラピーなどの自由診療を積極的に取り入れるようになることを期待しています。そうして、新しい診療体制が少しずつ出来上がってい くと、閉ざされた小児科の現場がより開かれ、小児科というサービスの消費者である「お母さんと子どもたち」は、もっと開かれて、もっと自由で、もっと安全 で、もっと安心で、もっとニーズに適った小児科サービス(診療)を受けられるようになるのではないだろうかと思うのです。

 そういった意味で、小児科は秘められた「可能性」の大きい分野であり、ひとたびそれがユーザー側にむけて拓いてくることができたならば、小児医療のあり方は「飛躍的」に変化する「跳躍力」をもった科ではないかと思うのです。

 それはまさに、小児科待合室に日々こだまする泣き声の生まれたての赤ちゃんから不調でありながらわんぱくに待合室を走り回る大きい子たち、それぞれ個性を持った「子どもたちの成長の可能性」そのものでもあるのだと、私は毎日の診療の中で、つよく感じるのです。

 うぅーん、そう思うと・・・だから、小児科って、やめられないんですよね!
これからこの連載では、昨今悲しいながら敬遠されがちな小児科の魅力、醍醐味をお伝えしていきたいと思います。次回をお楽しみに。みなさん暑い夏に体に気をつけて、がんばりましょう!





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