第13回 スーパードクターエッセイ/水沢慵一

スーパードクターエッセイ

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水沢慵一
医療法人社団 五の橋キッズクリニック 理事長(院長)
東京医科歯科大学医学部小児科講師、同付属病院臨床准教授
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第13回 混合診療の現実 ホンネとタテマエ

 みなさん、いかがおすごしですか?ひどい台風は東京には寄り付きもせず、そっぽを向いていってしまいましたが、被害に遭われたみなさまには心からお悔やみ申し上げます。

 さて先日、都内の私立大学に通う私の姪っ子が、相談にやってきました。なにの相談かと思いきや、ゼミで取り上げるテーマについて、どう取り組めばいいのかわからないので、ヒントがほしいとのこと。そのテーマとは、「混合診療の是非について」でした。


 そこで、私は姪のこれまでの文献などの調査状況をきいてみると、「混合診療に関する反対派の資料はたくさんある」ということでした。それで、かえって、混合診療に関する実像が見えなくなってしまったということのようなのです。

 私は姪にこのように話しました。「混合診療は、資料の上では反対派が多くをしめ、実際には有効的に実施されていないというような印象を受けるかもしれな いが、実際の医療現場では、カルテには【保険診療の部】と【自費診療の部】と横線がビビッとひかれて、混在している」と。

 すると、姪は目を丸くして驚いていました。もちろん、姪自身は風邪をひいたときなど、患者として病院にもかかったことはあるはずですが、医師の手元でア レコレとメモされる内容や、医療事務がカウンターの下でセッセと処理している内容は、患者にとってまったくのブラックボックスです。そして、会計窓口で伝 えられた金額を、何も疑わずに、支払って不調のからだを引きずりながら帰宅するのが、精一杯でしょう。


 それでは、実際に支払っている金額の中にすでに「保険」と「自費」があるなら、なぜ、ここまで、「反対意見」ばかりが声高に言われるのでしょうか?声高に叫ぶ側に身を置いている医師であれども、自身の診療において「混合診療」をまったくおこなっていないのでしょうか?


 もちろん、それは医師によって答えは様々だと思いますが、私のまことに勝手な想像では、おそらくほとんどの医師が「混合診療」を実際的には行っているよ うに思えます。なぜなら「保険」診療だけでは、現状の医療ニーズに応じきれないというのが実情であるからです。例えば、歯科医院の窓口におかれている歯ブ ラシ。あの歯ブラシは「自費」です。また、皮膚科でスキンケア商品がおかれていると、それも「自費」です。

 昨今の、産婦人科におけるゴージャスなホテルのような入院施設、あの滞在費用もまた、当然ながら「自費」なのです。病院の利用者である患者のニーズをみたそうとすれば、保険内では到底不十分な医療サービスしか提供できないということが容易に想像できるはずです。

では、なぜ、「自費」と「保険」の「混合診療」に対する反対意見が強くいわれるのでしょうか?

 それには、医療の本音と建前が見え隠れします。反対派の意見としては、「保険」以外の診療を良しとしてしまうと、自費を支払える人たちはオプションで積 極的な医療選択をし、自費分の支払い能力を持たない人たちは、オプションを選べず、結果的に医療において格差を生み出してしまう、という社会福祉的な理由 です。しかし、それが本当の理由なのでしょうか? 患者さんたちにとって医療とは、病気の状態にから回復していくために医師がもつ医療技術において提供で きうる最善のものを提供され、また、その医師が技量を持たないならばリファーし、その他の医療機関からその技術を提供される権利であると思います。この論 地にたてば、反対派の言うような社会福祉的な論は建前にすぎないということになります。そして反対派の本音は、つまるところ、「混合診療」を肯定すること によって、「保険」によって守られた何かを失うことを怖れているからなのではないでしょうか。「保険」薬の多くは、過去において薬効と安全を厚労省がみと めてきた薬であり、時の流れとともに変化成長していく医療現場に全てが適うものとはいえません。そういったことを鑑みれば、「混合診療」とは現行の保険制 度において選ぶことのできる最良の現実策であるともいえるのです。

 当院では、「統合医療」による診療を進めていますが、既存の医療の中でたりないものはその他の療法で補おうという姿勢は、「混合診療」そのものです。幅 広い選択肢から、患者さんが自由に、自分のライフスタイルや症状にあった療法を選択できるという体制が、日本においてもできる日はくるのでしょうか。その ためには、現行の保険制度の抜本的な変更・改革が必要になってきます。

 時代の流れとともに、行政も患者の声を無視できない状態にすこしずつなってきています。特に小児科は、社会福祉の分野でもあるため、政治と切っても切れ ないところにあると思いますが、政治のダシにされることなく、医療現場に携わる人間として、必要な医療を必要とされる患者さんに提供するという知性とプラ イド、患者さんへの愛情が求められる科なのかもしれません。

 うぅーん、そう思うと・・・だから、小児科ってやめられないんですよね!

 夏へあとひとふんばり。この時期のうちに、養生して、残暑への体力を温存しておきましょう。

 また次回、お目にかかります。





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