第10回 スーパードクターエッセイ/水沢慵一

スーパードクターエッセイ

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水沢慵一
医療法人社団 五の橋キッズクリニック 理事長(院長)
東京医科歯科大学医学部小児科講師、同付属病院臨床准教授
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第10回 地震に思う…自然の異常、体の異常

 能登の震災にはじまり、短い間に各地で大きな地震が立て続いています。
地震が起こる少し前まで、まだ3月だというのに狂ったような暖かさで、世の中は全体的に「何かがおかしい」という不安を漠然と感じていました。その矢先の地震です。
 異常気象といわれて久しい日本、いや世界規模...ですが、気象の大きな変化は、小児科で日々診療にあたる私にとっては、子ども達の姿と重なってみえる部分が多くあります。
 突然起こる大きな地震や大洪水などは、うまく代謝されずに地球の中心の方に溜まってしまった熱が、出口を求めて噴出する現象のように思います。
 アメリカ合衆国元副大統領アル・ゴア氏の「不都合な真実」に取り上げられているような温室効果ガスの問題など、今私達の住む場所は、まるで惑星規模で「病気」になっていっているようです。

 これは、日々診療しているアトピー性皮膚炎のお子さんの状態に似ている…と思います。ひどいアトピーを患うお子さんたちの皮膚は、表面だけが熱っぽく、足や体はひんやりとしています。熱が十分に体に行き渡らないために、体内の代謝や毒素の排出がうまく行われず、その結果、体内に汚れを溜め込んでいくことになります。そうすると、そういった「ゴミ」が少ないうちはいいのですが、家庭のゴミ箱も一杯になると、ごみ収集日に出すように体内から「ゴミ」を外に出さなくてはいけません。しかし、押し出す力が低いので、そういった冷えた体はどうやって押し出すかというと、まるでマグマを噴出する火山のように、一 気に噴出させるのです。それは、喘息の発作であるとか、風邪でもないのに定期的に発熱するといった症状なのです。「もうこれ以上は、ゴミを溜められません!」というからだの悲鳴が、発作であり、発熱なのです。しかし、それを現代の西洋医学では、熱がせっかく上がったのに、上がった途端に解熱剤を投与して下げてしまいます。そうすると、「ゴミ」はからだの中に閉じ込められざるを得ず、冷えた時期が始まるのです。
 それを繰り返すと、何処にも出せないゴミを、人間は排出器官のうちの最大面積を持つ、排出しやすい「皮膚」を通して排出するようになるのです。そうすると、アトピー性皮膚炎の中でも、乾燥したカサカサ症状だけでなく、爛れたり、グジュグジュしたような症状になります。

 これは自然に例えると、温室効果ガスによって代謝が狂った地球の表面において、木が枯れたり、砂漠化が進んだりしている様と良く似ています。熱を代謝できない表面である皮膚が、カサカサになって砂漠のようになっている状態です。そして中には、汚染された土壌の中から汚れた物質が地表に流出し、木が生えなかったり、動物が寄りつけなくなっているところがあります。
 そんな悪循環を繰り返している地球環境と、対症療法ばかりを追い求めて悪循環を繰り返してきた西洋医学は、やはりよく似たものとして私の目には映ります。

 話が地球規模になっていったので、幾分掴みづらくなってきたかもしれませんが、つまり似ているということは、「縮図」であるということではないかと思うのです。そしてもし、病んだ地球の縮図が病んだ子ども達であるなら、子ども達を癒すということは、地球を癒すということになるのではないか…統合医療を模索するうちに、私はこんな風に思うようになったのです。
 また逆も然りで、地球を癒すということは、やはり病んだ子ども達(大人たち)を癒すことでもある。
 そう考えると、私達小児科医の仕事には大変にバリエーションが豊かになるのです。目先の鼻水吸引や乳児検診が、なぜそこに必要なのか、なぜ今必要なのか、本当にそれは必要とされる形や内容であるのか…が、より大きな目的地が見えていれば、自ずと精査され、必要な形になって行くのだと思うのです。
 これは、日々たくさんの患者さんを診療する中で、遠地点に目標や意味合いを定めることが診察の手助けになるはずだ…という模索の中で辿り着いたことでもあるのです。

 小児科の診療と言うと、まるで子どもだけを診療しているような響きがありますが、以前に書いたように、実はマーケットは奥深く、人間の全てを対象にしているといっても大げさではありません。
 社会や自然、家族など、環境のひずみは、その存在の中でもっとも弱いところにでます。それは、子どもであったり、高齢者であったり、障害者であったりします。そして、心身の未熟な子どもは、どこまでいっても子どもであり、子どもとして扱われるために、中心点として非常にぶれにくい点でもあります。
 そんな重きを担う中心点である、子ども。つまりは、コンパスの主軸は、実は大人や男にあるのではなく、子どもにあるのではないのかと思い始めています。
 実際の社会をみると大人、なかでも男性が目立った主軸となっていることが多いのですが、大人や男性が主軸となるのは、実際にはそのキャリアや立場を保全するためであり、そのキャリアや立場は何のためにあるのかというと、個人の欲や本能的なものである一方で、等しいくらいに女性や子ども、つまりは自身の家族を守るためでもあるのです。
 つまり、ピラミッドの上下構造のように見えながらも、実はそのピラミッドの重心には、揺らぎない子どもの存在があるのです。

 そう思うと、どうでしょう?小児科が内包する可能性の広さ…無限ですね?
 よくマーケットでは、「おんな・こども」は商売にならない…などといわれますが、いえいえ、そのマーケットの真の中心者こそ、「おんな・こども」であるのです。
 「おんな・こども」は、結局医療現場で「産婦人科」と「小児科」です。もっとも自由診療が進み、脚光を浴びる「産婦人科」と、いまや問題だらけの不人気「小児科」。
 どうして分離されるのでしょう?「産(婦人)科」の先には、必ず「小児科」が待ち受けているのです。本当は小児科業界も、もっとおおらかな気持ちで先を見て良いのかもしれません。目先の「少子化」という数値だけにとらわれて戦々恐々としていたのでは、それこそ、選ばれない小児科に成り下がってしまいます。

 みなさん、前に進みたい時にもし貴方の焦点が何か近くのものに合わせられないのなら、どうぞ遠地点にターゲットを合わせてみてください。きっと、近視眼では見えなかったことが見えてきて、ブレイクスルーにつながることでしょう。

 うぅーん、そう思うと・・・だから、小児科ってやめられないんですよね!
 大きな地震は、ある意味行き詰ったエネルギーを発散させ、突破口を見いだす地球のブレークスルーです。地震からこんな話になりました。
 不順な天候が続きます。自己管理に気をつけて、みなさん頑張りましょう!





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