第09回 スーパードクターエッセイ/水沢慵一

スーパードクターエッセイ

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水沢慵一
医療法人社団 五の橋キッズクリニック 理事長(院長)
東京医科歯科大学医学部小児科講師、同付属病院臨床准教授
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第9回 桜開花前線と小児科の深い関係?!

 ついに、桜が咲きましたね。春本番、すぐに夏がやってくるでしょう。
 先日、テレビで見ましたが、日本の桜開花前線は通常、南(九州や沖縄)から北上していきますが、このまま温暖化が進むと、北(北海道)から南下していくという可能性もあるのだそうです。
 なぜ、そんなことが起こってしまう可能性があるのかというと、桜が花開くためには、暖かさだけでは不十分なのだそうです。つまり、「暖かくなる前に、寒い時期がないと、桜は春が来たことをきづくことができない」のだそうです。この点は、私は、本当に面白いと思います。
 というのも、これは長年の診療の中で、日々成長していく子どもたちの姿に似ているからです。幼い時に腎臓に疾患があるということで私が担当してきたお子 さんが、闘病に打ち勝って、または疾病と共存しながら、いまや、結婚し、赤ちゃんを授かっているというほどに私の医師人生も長くなりました。もう来年には 医師としての成人式を迎えます。

 そういった、人生の早いうちに長期入院をせざるを得なかったり、病弱と呼ばれる時期を過ごした子ども達が、あるとき春が来て、強くしっかりとした肉体と 精神をもった大人へと成長し、自分の花を咲かせ、次の世代へと実りを受け継いでいくという命の循環が、私達人間と同じように、桜にもあるのだとわかって、 とても嬉しくなりました。
 腎臓の疾患もそうですが、よりケースが多いのは、アトピーや喘息のお子さんです。私のクリニックでは、慢性疾患の予約外来日である火曜日と金曜日の午後 に、1回30人ほどのお子さんが来院されます。そのお子さんたちは、慢性的な皮膚のかゆみや、かさかさ、グショグショした爛れ、出血、赤みなど全身レベルでの不快をいつもいつも感じています。また、こういった全身症状のひどいお子さん方は概して体温が低く、体のヒンヤリした感じのお子さんが多いのですが、この点はまるで、桜が冬を越している真っ最中の時期と心象的にだぶります。そして、お子さんだけではなく、保護者の方も、ひどい成人アトピーに悩まされているご両親もいらっしゃったり、症状こそなくとも、お子さんのひどい状態に心を痛めている、いわば冬の時期にある親御さんもいらっしゃいます。

 ひどい状態にある子ども達や、親御さん方に少しでも暖かい風を送れるように、日々診療にあたってきましたが、この春、ちょうど、東京で全国一早い桜の開 花ニュースを聞くのにふさわしく、私のクリニックの慢性疾患外来日にも、まるでひとつふたつと桜の花が開くように、奇跡的な回復を見せてくれているお子さ んたちが増えてきました。
 長年の診療の中で、効果的なアトピー治療を模索してきましたが、その長年の思いがすこしづつ実現してきたこの春です。投薬のみに頼らないアトピー・喘息 の治療、飲み薬・塗り薬・食事の指導・就寝時間などの生活上の指導、それに加えて、看病の大変さにくたくたになっているお母さんのサポートや家族カウンセ リングなど実に様々な角度から取り組んできました。
 そこに、自然の力と協調した処方など、完全無料保険診療の制約(弊害)と対峙しながら、家計にやさしく、人的負荷が低く、けれども効果は高く……ベストパフォーマンス点を模索してきました。そうしたら、驚くほどの快癒を見せてくれる子ども達が現れたのです。

 まずは、4歳と3歳のわんぱく兄弟。生まれてすぐからひどいカサカサで、皮膚はいつも粉をふき、掻き壊した部分は出血して、見るもかわいそうな状態でし た。抗アレルギー剤の飲み薬とステロイドの塗り薬を使って症状を抑えながら、成長して力がつくのを待つという消極的な方策でしたが、今年、桜が開花の準備をしていたもっとも寒い時期に、桜ならぬバラの生命力が凝縮された生薬的なハーブ液を化粧水のように使い、保湿用の植物原料のクリームを塗ってみると、真っ赤でカサカサだった皮膚がしっとりして、アトピーに苦しんでいたのがまったく分からないくらいにキレイな肌になったのです。その驚きは、実に大きいものでした。
 というのも、これまで定期的に来院していた兄弟ですが、しばらく来院しないので、わたしもすっかり忘れかけていた頃に、予約外来ではない日に突然来院されたからです。3ヶ月以上顔を見ていなかったので、久しぶりの面談に驚き、来院の理由を聞くと「風邪」をひいたとのこと! 毎回、毎回、慢性症状で来院していたので「風邪」ときいて、本当に嬉しく思いました。

 その次に、4ヶ月の女の子の赤ちゃん。皮膚は繊細で、赤く腫れ、びしょびしょしたような、いわゆるお汁がういています。これまでの塗り薬にあわせて、ハーブ由来の保湿水とクリームを使ったら、最初は合わない様子で、異なる保湿水などを使ってみたりして苦労しましたが、いまや、つるんとしたとてもキレイな肌になったのです。赤ちゃんのお母さんも笑顔になったことはいうまでもないでしょう。

 こんなお子さんもいらっしゃいました。いつもカサカサして、ワセリンなど保険処方薬を出していましたが、なかなかスッキリせず、思い切って天然植物成分 のクリームに変えてみたところ、カユミがおさまり、とても調子がよくなりました。しかし、保育園に行っているので、保険処方の他の保湿剤にしなさいと園推薦の皮膚科医から言われ、使用してみたところ、今度はひどい炎症をおこして夜も眠れないほどになってしまいました。結局当院に来院され、ふたたび天然植物成分のクリームに戻されたのです。

 他にもたくさんのお子さんが快調になっています。もちろん、まだいまいちというお子さんもいらっしゃいますが、いずれのお子さんも共通するのは、自力で冬を越えて調子が良くなってくると、メキメキと治癒能力を発揮し始めます。風邪を引きにくくなったり、目に見えて体力がついてきたり、春が訪れるというの はこういうことなのだといわんばかりに元気になって、来院回数も減るのです。

 病院としては来院回数が減るということは経営上問題では?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、そういうことは、実はありません。もちろん、これまで毎週来ていた患者さんが月に一度しか来なければ、その分の診療点数は減るわけですが、それは同時に、他の患者さんに治療のチャンスが広がるということでもあるのです。
 患者さんを物理的な条件で囲い込みする必要はまったくありません。よくある話ですが、慢性疾患だからといって2週間毎に定期的に通って、その外来ではほとんど話す間もなく、いつも同じ処方をもらって帰ってくる。それが本当の通院といえるでしょうか?
 患者さんと医師との間に信頼関係があること。これが病院経営でもっとも大事なことです。何度もきてくださる患者さんでも、それが結果として「何度行っても治らない」として不評になり、口コミでネガティブな評価が伝わるというのがもっとも恐ろしいことです。治療結果が総じて良好に変化するプロセスにおい て、診療回数が減っていくということは、慢性疾患をもつ子どもさんの親御さんにとってはなによりもうれしいことであり、そこで築いた信頼はちょっとやそっとの風評などで壊れるような脆いものではありません。

 冬があるから、花がさくという桜開花のニュースは、厳しい小児科業界全体にとってもありがたいヒントのようにも、私には思えました。患者さんたちから見 れば病院や医師の選択肢が少なく、診療制度なども旧態依然とした業界において、「あの先生はいい先生だ」と信頼を得ることは、業界全体が追い風のときよりも、相対的に高い評価へとつなげてくれることになるのです。

 うぅーん、そう思うと……だから、小児科って、やめられないんですよね!
 夜になると冷え込みがもどる今の時期、みなさん体調管理に気をつけて、お互いがんばりましょう!





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