第64回 黒岩裕治の頼むぞ!ナース

黒岩祐治の頼むぞ!ナース

黒岩祐治
ジャーナリスト。国際医療福祉大学大学院教授。早稲田大学大学院公共経営研究科講師。医療福祉総合研究所(スカパー・医療福祉チャンネル774)副社長 <プロフィール>

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▼バックナンバー #1〜#49

 



 

第64回 認定看護師と専門看護師

 今から20年前…。
 「救急救命士制度を作ったあなたのチカラで看護の問題をなんとかして下さい」
 あるナースから一通の手紙が私の元に舞い込みました。見知らぬナースが私に期待を寄せてくれている…。それは私の男心をくすぐり、大きなチカラを与えてくれました。私はそれをきっかけとして、ナースの取材を始めることにしました。まずは彼女が訴えてきた看護の問題、すなわち准看問題から手をつけたのでした。

 残念ながら肝心の准看問題は未だに一歩も前進できないままですが、ナースの世界全体は当時と比べて大きく変わりました。当時は「キツイ・キタナイ・キケンの3K職場」と喧伝されていたナースの仕事でしたが、今は3Kという言葉自体がナースの世界から消えました。二言目には「社会的地位の向上」と言われていましたが、そういう言い方も最近は聞かなくなりました。

 当時は10校程度しかなかった看護大学が今や200校を超えたというのですから、まさに激変です。逆に言えば、准看問題が残っている方が不思議な気がするほどです。さらに今では、医療行為に踏み込むナースとして特定看護師やナースプラクティショナー(診療看護師)を作るかどうかまで検討されています。今回はその第一ステップとも言うべき認定看護師と専門看護師について、考えてみたいと思います。

 実は私自身、「感動の看護師最前線」シリーズの中で、10年以上前になりますが、ETナースというストマケア専門のナースを取材したことがありました。アメリカのナースプラクティショナー(診療看護師)の取材を紹介した後、国内でストマケア専門に働く彼女たちを未来のナースの在り方を示唆する存在として紹介したのです。当時は一つの分野に専門的に関わるナースは他にいなかったので、とても新鮮でした。

 そして、その時のスタジオで、私は患者の声として、日本のナースもETナースだけでなくそれぞれ専門性を高めたナースプラクティショナーを目指すべきではないかと主張したのです。それが直接のきっかけになったかどうかは別にして、認定看護師や専門看護師制度創設に私自身もある程度関与することができたのではなかったかと自負しています。

 ところでナースのみなさんは認定看護師と専門看護師の違いがはっきりと分かっていますか?ナースにそんなことを聞くのは失礼かもしれませんが、なんともややこしいですね。「皮膚・排泄ケア専門認定看護師」なんていうのもいますから、専門なのか、認定なのか…?少なくとも一般の患者に理解してもらおうと思っても不可能に近いですね。私がまず思ったのは「どっちが偉いの?」ということでした。

 認定看護師は、「皮膚・排泄ケア専門」「感染管理」「緩和ケア」「ガン性疼痛看護」「摂食・嚥下障害看護」「認知症看護」「不妊治療看護」など、19の分野があります。実務経験が5年以上、認定分野の経験が3年以上のナースが、定められた研修機関で半年間の研修を終え、認定試験に合格すれば、資格を与えられます。それに対し、専門看護師は看護系大学院を卒業した上で認定試験に合格しなければなりません。専門看護師は今はがん・精神・地域・老人など10の分野があります。

 そういう意味からすればどちらが偉いかどうかというより、少なくとも資格取得のハードルが高いのは専門看護師の方です。現に、認定看護師が2010年7月現在で7300人なのに対して、専門看護師は2010年8月現在で451人しかいません。専門看護師は1996年には全国で6人だけでその後5年ほどはなかなか増えませんでしたが、ここ数年、急速に増加してきたと言います。ですから、ナースの中でも専門看護師さんを実際には見たことがないという人も多いのではないでしょうか?

 いずれもあくまで日本看護協会が定める認定資格であって、国家資格ではありません。そのため、資格を取得したからと言って、特別に給与体系が上がるわけではありません。
 認定看護師の場合、診療報酬が取れるようになったケアもいくつかあります。感染防止対策は100点、呼吸ケアは150点、緩和ケア診療は300点ですが、ガン患者カウンセリングや褥瘡ハイリスク患者ケアは500点もつきます。専門看護師の場合、ガン患者のカウンセリングでガン専門看護師にはつくようにはなりましたが、まだまだ部分的です。

 日本看護協会看護研修学校で認定看護師養成教育に携わっている溝上裕子氏は言います。
 「一番画期的だったのは、褥瘡ハイリスク患者ケア500点ですね。これは初めてナースについた診療報酬だったんです。それからは本人が(認定看護師を)取りたいというより、病院の管理者が診療報酬が取れるからぜひ取ってこいということで、希望者が一気に2倍以上に跳ね上がりました。認定看護師だからということで、給料をつけることができませんが、役職をつけることによって、管理手当というカタチで対応しているところもあります。でも国がきちっと認めてくれる資格だと働きやすくなるんですけどね。そういう方向に向かっていくことを望んでいます」

 当初はせっかく認定看護師や専門看護師になって病院に戻ってきても、違う病棟で働かされることもあるという問題点も指摘されていました。しかし、診療報酬が取れるようになったことで、病院側にもその専門性を活かすインセンティブが生まれたようです。

 日本看護協会常任理事の洪愛子氏は言います。
 「最近では一番専門性を発揮しやすい部署に配置をする、もしくは管理部にフリーランスとして置いて、施設の必要な場所に自由に行けるというようなことをして下さっている傾向は高まっています」

 専門看護師制度ができたばかりの頃は、目指す人はこれまで働いていた病院をいったん辞めて、大学院に2年間通わなければなりませんでした。その間はもちろん無給ですし、入学金、授業料、すべては「これまで勤めながら必死で貯めた貯金と退職金を当てました」という人もいました。相当な覚悟がなければ取れない資格だったようです。だから制度ができてから何年も資格取得者がなかなか増えない状況が続きましたが、最近は専門看護師の仕事ぶりが評価されてきたからでしょうか、変わってきたようです。

 「現在はこういった人を自分たちの施設に置きたいなと思う病院の管理者が増えてきました。そこで有給休職という制度が少しずつ出来てきて、たぶん2~3割の人は利用しています。また、施設から奨学金や部分的な給与をいただいて進学されるという方が出てきています。病院側の理解も出てきたんですね」(洪氏)

 精神科医の和田秀樹氏は言います。
 「医師も専門医、認定医とたくさん作っていますが、こういう(認定看護師養成所のような)研修機関がない。例えばガンの化学療法にしても、試験だけなんですね。その一発勝負の試験にしても学会が作る認定医です。しかも重箱の隅をつつくような問題ばかりで臨床能力に関係ないものです。そういう人たちが専門医を名乗っているのに比べたら、認定看護師の方がはるかに素晴らしいですね」

 認定・専門看護師が「先生」と患者さんから呼ばれているシーンに遭遇しました。患者さんにもその専門性が理解され、評価され、頼りにされている証拠です。私が取材を始めた20年前には助産師以外、ナースが「先生」と呼ばれることは皆無でした。私は新しいナースが生まれつつあることを改めて実感しました。

 これからは病院も認定・専門看護師がどれだけいるかを標榜し、競い合っていくような時代になってくればいと思います。それによって患者自身がもっともっとその専門性の素晴らしさを知るようになれば、病院そのものが大きく変わってくるように思うのです。

 ただ、そのために特定看護師制度を作るのがいいのかどうか…。それはもう一度、よく考えてみるべきでしょう。特定看護師制度ができれば、ナースプラクティショナー(診療看護師)の芽はなくなります。目指すべきはナースプラクティショナー(診療看護師)。中途半端なものは作るべきではないと私は思うのですが…。(完)





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